冷たく優しい通告
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二回連続でアスペルガーの話題です。
昨日は私の仕事始め。今年最初のお仕事は、
コミュニケーションが苦手なスタッフを対象にした、
研修&トレーニングでした。
依頼元は人材系の会社さん。
出向要員として採用した、
自社の臨時契約社員を電話オペレーターとして、
コールセンターに出向させたのですが、
出向先の研修でやはりNGが出てしまいました。
それの事前見極めを頼まれて、
面談したときの日記が「見極めのお仕事」でしたが、
ジャッジしてそれで終わりと思っていたら、
次の仕事の紹介のためにも、
一度コミュニケーションの研修&トレーニングをして欲しい、
と依頼が入り、それが新年の初仕事になりました。
対象者は斎藤さん(20代後半/男性/仮名)と、
向井さん(20代前半/女性/仮名)の2名。
そのうち向井さんのほうはアスペルガーだと思われます。
この会社さんは私がお付き合いしている感覚としては、
人に対して暖かく人材育成にも深い理解があります。
アスペルガーなどの発達障害に関しても、
前回の担当者さん(私はそのときが初対面)は、
言葉をよく知っていて誤解や偏見を感じなかったので、
それで私は向井さんに関しては、
「自分はアスペルガーだと思う」ときちんと伝えてありました。
その時、「その場合はどういう研修が有効?」
と問われたので、
「会話の様子をビデオに撮ってまず本人に見せて、
それで的確な気付きが得られれば、
それに従って行動を変えるトライアルを行っていくし、
本人が見ても気づかないようであれば、
本人以外の方のビデオと比較させて、
客観的な相違点を指摘・指導していく」
と回答しました。
そう、客観的に。それが一番大事だと思うんです。
漠然と「どこが違うと思いますか?」と尋ねても、
こちらの主旨を読まずに意外なところを見ていたりするので、
「髪型のヘアピンの位置」等々(←実話)返ってきたりします。
なので「笑顔の回数を比べてみましょう。」
「頷きの頻度を比較しましょう」
「言葉のキャッチボールが何往復したか数えましょう」
など、数や長さで計測できる項目を、
ピックアップしたほうがいいと思う、とも回答しました。
それが先方にヒットしたのでしょうか、
後日、「あの内容で研修をやってもらえませんか?」
というオーダーにつながったようです。
* * * * * *
アスペルガーと思われる人のコミュニケーションの改善には、
避けては通れない必須項目があります。
それはご本人がまず自分の特性を知りそれを認める事です。
それも傷ついたり自己価値を低下させたりせずに、
「自分にはそういう傾向がある」と自己承認し、
「だから仕事でうまくやっていくためには、
工夫して行動を変える必要がある」と、
前向きに肯定的に理解する事だと思います。
そのためにビデオや録音を使って第三者の目で、
自分の様子や会話を見聞きしてもらうわけです。
昨日は早速普通に会話している様子を撮影して、
お二人に見てもらい、
「気が付いたことを30個書き出す」という、
課題を与えました。
数を多くしたのは、より詳しくより細部まで、
自分自身のコミュニケーションの様子を、
見て欲しいからです。
そういった説明をしたり、指示出しをしている間にも、
勘違いや聞き漏れによる説明のし直しが結構あって^^
前回はジャッジ(見極め判定)なのでスルーしましたが、
今回は改善の研修なのでその都度言葉に出していきました。
* * * * * *
自分達の会話の様子や、私との受け答えを、
ビデオで見たお二人の反応はかなり衝撃だったようです。
ですがとても的確に30個書き出してくれました。
二人の感想をひとことで総括すると、
「こんなはずじゃない」というのが全体の感想とのこと。
そうそう、それを感じ取ってね。
それと同時にこの作業が二人にNGを突き付けて、
ダメ出しをするのものでは決してないということをわかってください。
そのために必ずそれを補足します。
「皆さんは自分の職場での動きを、
ビデオで見る機会ってありますか?ないよね。
だから今日はとっても貴重なチャンスと思って欲しいの。
これは皆さんにダメ出しするためにやっているのではなく、
皆さんが自分達の様子を自分で見て、
他の人にはどう見えるのかを知る数少ない機会なので、
ラッキーだと思ってリラックスして見てみてね。」って。
そう説明することで、不要な不安や恐怖感から解放して、
こころの目と耳を閉じないで欲しいんだわ。
そしてそのあと、
私達3人は二人の30項目をシェアし合い、
それについてのお互いの感想や雑談をいい感じで交わしながら、
あっという間に場が和んで来ました。
私は、そろそろフィードバックのタイミングが来たかな、
と思いました。
* * * * * *
向井さんが書き出した「自分を見た感想」は、
的確ではありますが、私から見ると表面的で、
まだまだ深い核心には触れていない気がします。
そこで話し合いの後、最後に言いました。
「じゃ最後に今度は私が自分で感じたお二人の特徴を、
ここで言ってみてもいい?」
「もちろんです!」(二人)
「了解!
斎藤さんは確かにちょっと怖いよね。笑顔がないし声も暗い。
それともうひとつ気になったのが、今言われたことを、
すぐに忘れちゃうよね?(はい(笑))
さっきも、『3つずつ読み上げて』と言ったのに、
それが頭に入っていなかったよね、聞こえてた?
(それが…覚えてません。。。)うんそうだね。
その前も、『今のをメモしてね』と言われた内容を、
覚えていなかったよね?(はい)それが課題かな。」
「向井さんはね、質問と答えがズレるときがあるね。
(はい、よくそのように言われます)
あ、そうなのね。それってなぜかわかる?
(わかりません)
それは向井さんが、相手の人の質問の目的を、
キャッチするのが苦手なタイプだからだと思うよ?」
「目的…ですか。。。」
「うん、そう、目的。
人ってね、会話をする時は、
いつも心の中に何かの目的を持っているの。
このビデオも私が『どう思う?』と聞いたときは、
心の中で『向井さんが自分の何かに気が付いてくれないかなー』
と思っているの。
だから、そこで向井さんが「自分の○○に気が付きました」
と答えてくれるとうれしいし、すごく満足するんだけど、
さっきみたいに『カラスの鳴き声がうるさいと思いました』
と言われると、期待した答えと違うから、
満足できない気持ちになっちゃうんだよね。」
「あああああーー、それすごくわかります。
そうなんです。そうなんです。
それは自分でもわかっているんです。
でもそれがわかるまですごく時間がかかるんです。
そうやって一生懸命考えていると、
相手の人は待てないみたいで、
嫌な顔されたり、怒られちゃったりするんです。
だから私、考えるスピードをもっと速くして、
短い時間にもっといろんなたくさんの事を、
考えられる人になりたいんです。」
「あぁ、そうなのね、なるほど。
そういうことは確かにあるよね。」
「私はこのたび働いてみて、
世の中が自分に要求するスピードは、
ものすごく速いのだとわかりました。
そしてそれに応えなければいけないとわかったときに、
自分にとってはとても高いレベルのものを、
要求されているのだと知りました。
それを直したいんです。」
向井さんって本当はとってもクレバーな人なんだな。
私、アスペルガーじゃないかと(自分が)感じる人が、
ここまで的確に現状を訴える発言は、
初めて聴いた気がするし、心から共感できました。
そうなんだよ、そうなんだよ、と心の中で、
深く同意している自分がいました。でもね…
「向井さん、それは直りません。
直らないと思った方がいいです。」
「直らないんですか?」
「はい。あきらめてください。
なぜならそれは持って生まれた資質だからです。
顔のつくりや髪質や手足の形がひとりひとり違うように、
物事を考えるスピードも相手の目的を察知する力も、
生まれつきのものなので、
基本的に変えられないと思って下さい。」
向井さん、ごめんね、こんな言い方して。
そしてこのブログをお読みの皆さんも、
決していい感じを抱かないのはわかっています。
でも欠点の多い私が自分の事を考えると、
そう観念したときから成長がスタートしたんです。
「この資質は変わらないんだ」と腹を決めた時から、
それを補う行動の工夫をよく考えるようになって、
結果的に”自分が変わってきた”んです。
「だから、いいですか?よく聞いてください。
直らないのに『直る』事に時間とエネルギーを注ぐよりも、
最初から『直らない』と仮定して、
『だったらどうするか』を考えて行動を変えていった方が、
楽に早く世の中に適応できるんです。」
「あのー、ひとつ質問してもいいですか?(もちろん)
『直る』ことと、『行動を変える』事は違う事なんですか?」
「違います。
『直る』というのは考えるスピードが速くなること。
『行動を変える』というのは、
まずそれが一生直らないと仮定したうえで、
それを補う工夫を自分でしていくことです。
直らないものに対して、無駄な時間をかけるよりも、
『直らない』と心に決めて、対策を考えて実行するほうが、
結果的に早く確実に自分を変えていくことができます。」
「そうなんですか!」
「そうです。
もしかして自分の特徴をダメなものと思っていませんか?」
「へ?」
「考えるスピードが遅いのは決してダメな事ではないですよ。
余計な事が思い浮かばず物事に対して寄り道をしないので、
考えるスピードが速い人よりもずっと成功しやすいです。」
「そうなんですか?」
向井さんの表情が薔薇色に変わった気がしました。
向井さんと、隣の斉藤さんは、誰に言われるでもなく、
ものすごい勢いでノートに私の一字一句をメモし始めました。
「もちろんです。
他の人の会話の目的がわからないのもいいことです。
相手の目的がわかる人は相手に合わせようとして、
自分のやりたい事や言いたい事をすぐに引っ込めますが、
目的がわからない人は自分の意思を曲げないので、
それが強さとなって、仕事でも実績を出しやすいんです。
だから、自分の事を決して『ダメなやつ』って、
思ってはいけません。
思ったら本当にそうなっちゃうんだよ?
なぜなら人の脳の仕組みってね、
自分が思った通りになるようにできているんだって。
わかった?」
「はい!」(ふたりとも)
* * * * * *
…と、ここまではまずまずよかったんですが、
この後、研修は思わぬ方向へ。
このあと、私は自己価値やセルフイメージついて。
そして人の資質やタイプ分けについて少し話したのですが、
頭に書いて説明した何かの時に、
「こういう特性も極端に度合いが強いと障害になっちゃう時もある」
ってつい言っちゃったんですよね。。。
そうしたら予想外に向井さんの食いつきが強くて、
「それはどういう意味ですか?」という質問が来ちゃったの。
だから私は、自分を例えに出して、
「私はこういう特性を持っているから、
自分ではADHDの傾向があると思っているし、
皆同じように、誰にでも可能性はあるんじゃないかな」
と答えました。
そしてそのあとは、何パターンかロープレとトライアルをこなし、
初日は終了…のはずだったんですが、
片付けながら談笑していると突然向井さんが、
「先生、私、実は精神科に行こうと思っているんです」と。
どひゃーと思って無言で顔を見つめると、
「先生、私、絶対何かの障害だと思うんです。
だから早く診てもらいたいんです。」
「そうなの?
障害と言うのは生活に支障が出るレベルということだよ?」
「もうすでに支障が出ているんです。
担当の鈴木さんにはもう言ってあるんですが、
『どうして行きたいの?』と聞かれても答えられませんでした。
でも今日の研修で、
先生がさっきADHDという言葉を出してくれた時に、
なんだかものすごく安心して、『言ってもいいんだ』
と思いました。
鈴木さんは私が体調悪いんじゃないかと、
心配してくれているんですが、
そうじゃないということを、
このあとにきちんとお話したいと思います。」
えーーーー、これは予想外の展開に。。。
しかも、他の人にも話しがよく聞こえるこの場所で、
この声の大きさで…(やっぱりアスペさんなんだよね^^)
* * * * * *
研修後の担当者さん(30代前半/女性)との打ち合せ。
みんなはもう帰りました。
「向井さん、自分でわかっていたんですね。
やっぱりそういうものなんですね。」
「そうだったんだね。
なぜ自分はこうも受け入れてもらえないんだろうという、
不条理感と欠落は常にあると思うから、
きっと自分に対してものすごく真剣に悩んできたんだね。」
「彼女、賢い人ですよね。」
「同感。でもさ、
なんでアスペルガーという言葉を知っていたんだろう。
私はADHDしか言ってないのに、
さっきアスペルガーって自分から言ったでしょう?」
「あぁ、それ、思い当たります。
たぶん向井さんは過去に病院に行っているんだと思います。
そういえば、それの何かを『お見せしてもいい』と、
言っていたのを今思い出しました。」
「そっか。。。過去に病院、行ってるんだ。。。
どうするの?会社として。
続行を願っているの?終了を願っているの?
そこを意識合わせしていなかったので、
私も対応に判断がつかなかったよ。
ごめんね。確認しておけばよかった。」
「私にも判断がつきません。
上と相談してみないと。」
「そう。そうなのね。」
私は本当はさ、向井さんの成功を見てみたいよ。
彼女、絶対に言わないけれど、
中学と高校で苛められていると思うんです。
だってその頃の思い出を尋ねると、
表情が苦しそうに歪むんだもの。
「あぁ、辛かったんだね」と思いながら、
でも実際は触れずにスルーして会話を続けたさ。
そんな経験のある人は、
ここから先はあんまり不幸になって欲しくないんだな。
今のこの場ではいい結果が得られなくても、
それでもそうじゃないところで、
少しでもうれしい気持ちや楽しい思いをして欲しい。
「直らない」と即答したのは、
私の優しさでもあり冷たさでもあるけど、
「今から、ここから」という思いに変わりはないの。
研修はあと二日。
明日は明日で何かが待っているんだろうと思います。
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こんにちは
再び邪魔します。
息子もそうですが、アスペルガー症候群の方は、自分が障がい者と気が付いてない場合が多いです。 しかし記事を読みまして、自分と周囲の人間の違いと言うのを、早くから納得させる教育方法も必要だったと思いました。
最近は、「あの人アスペ?云々・・・」などと、ちょっと【アスペルガー症候群】が知られてから、変わった人間、協調性のない人間などに対し、アスペルがーと言う言葉を安易に使う人も居ますが、脳の発達異常から来る障害と医学的に証明された者と一緒にするのも問題ではないでしょうか?そういう方とは、【アスペルガー症候群】と医学的に証明された本人、家族の生き様が全く違います。
自閉症、アスペルガー症候群の場合、【サバン症候群】のように、健常者にはない優れた才能を秘めていて、その才能を認められていない場合も多いのですが、家族は才能を100%理解しています。
今まで(特に幼少時)、心無い健常者に非難を浴びてきました・・・。そういう人ばかりじゃないですがね(^^;
〔環境が人を作る〕、と言う言葉がありますが、今は、アスペルガー症候群も脳の発達障害と医学的に証明されましたが、ちょっと前までは、「母親の躾が悪い!」だの、「家庭環境が悪い!」だのと親のせいにされてきましたからね@@酷い話です・・・。
投稿: 黄泉の使い | 2013.02.01 09:49
黄泉の使いさん、コメントありがとうございます。こちらへのご返信が後になってしまいました。私ね、誤解を恐れずに申せば、アスペルガーの方がとても好きなんです。「もしや」という方にお会いするとうれしくなってしまうんです。才能をお持ちというのもその通りだと思います。ただそれを生かすためには十分理解度のある翻訳者が必要だと思うんです。ご家族や支援者ではない仕事的な第三者という意味で。だから、なんとか感情にとらわれずに事実だけを見る人が増えないかな~と思って、このテーマで書くときはそんな気持ちでブログを書いています。
投稿: ぷらたなす | 2013.02.07 01:09
ご返信ありがとうございます。
仰るとおりですね・・・。
第三者のサポーターがもっと身近に存在していたら、この障がいを持った人達は
どんなに生きて行き易いことか・・・
健常者の変わり者と一緒にされやすいですが、大きな違いは、
他人と行動を共有するという考えが存在しないので、友達関係がなく、
恋愛感情もないので、恋人という考えも存在しなく、結婚願望もありません。
一人の世界が当たり前なので、周囲の人間の存在自体が障がいなのです。
健常者の変わってる人、協調性のない人と言われる人とは質が違うのですが、
そういう人は居ると見られるのか、なかなか理解を得られない状態です。
この健常者との違いを、仕事で上手くサポートしてくれる人が居ると、
社会でも才能を発揮出来る人が増えると思います。
投稿: 黄泉の使い | 2013.02.08 21:47
黄泉の使いさん、「一人の世界が当たり前」というのも、見方によっては逆に強みだと思います。先日、障がい者就労支援のお手伝いで面接対策講座の面接官役をやりました。今回は「知的」の方が多かったですが、余計な思惑を持たずに淡々と仕事をしてくれそうな雰囲気に大きな好感を持ちました。人と違うことを長所として生かしていけるような物の見方ができる人が一杯増えればいいなぁと思います。
投稿: ぷらたなす | 2013.02.09 08:01