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2013.01.09

冷たく優しい通告

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二回連続でアスペルガーの話題です。

昨日は私の仕事始め。今年最初のお仕事は、
コミュニケーションが苦手なスタッフを対象にした、
研修&トレーニングでした。

依頼元は人材系の会社さん。
出向要員として採用した、
自社の臨時契約社員を電話オペレーターとして、
コールセンターに出向させたのですが、
出向先の研修でやはりNGが出てしまいました。

それの事前見極めを頼まれて、
面談したときの日記が「見極めのお仕事」でしたが、
ジャッジしてそれで終わりと思っていたら、
次の仕事の紹介のためにも、
一度コミュニケーションの研修&トレーニングをして欲しい、
と依頼が入り、それが新年の初仕事になりました。

対象者は斎藤さん(20代後半/男性/仮名)と、
向井さん(20代前半/女性/仮名)の2名。
そのうち向井さんのほうはアスペルガーだと思われます。

この会社さんは私がお付き合いしている感覚としては、
人に対して暖かく人材育成にも深い理解があります。
アスペルガーなどの発達障害に関しても、
前回の担当者さん(私はそのときが初対面)は、
言葉をよく知っていて誤解や偏見を感じなかったので、
それで私は向井さんに関しては、
「自分はアスペルガーだと思う」ときちんと伝えてありました。

その時、「その場合はどういう研修が有効?」
と問われたので、
「会話の様子をビデオに撮ってまず本人に見せて、
それで的確な気付きが得られれば、
それに従って行動を変えるトライアルを行っていくし、
本人が見ても気づかないようであれば、
本人以外の方のビデオと比較させて、
客観的な相違点を指摘・指導していく」
と回答しました。

そう、客観的に。それが一番大事だと思うんです。
漠然と「どこが違うと思いますか?」と尋ねても、
こちらの主旨を読まずに意外なところを見ていたりするので、
「髪型のヘアピンの位置」等々(←実話)返ってきたりします。

なので「笑顔の回数を比べてみましょう。」
「頷きの頻度を比較しましょう」
「言葉のキャッチボールが何往復したか数えましょう」
など、数や長さで計測できる項目を、
ピックアップしたほうがいいと思う、とも回答しました。

それが先方にヒットしたのでしょうか、
後日、「あの内容で研修をやってもらえませんか?」
というオーダーにつながったようです。

    *    *    *    *    *    *

アスペルガーと思われる人のコミュニケーションの改善には、
避けては通れない必須項目があります。

それはご本人がまず自分の特性を知りそれを認める事です。
それも傷ついたり自己価値を低下させたりせずに、
「自分にはそういう傾向がある」と自己承認し、
「だから仕事でうまくやっていくためには、
工夫して行動を変える必要がある」と、
前向きに肯定的に理解する事だと思います。

そのためにビデオや録音を使って第三者の目で、
自分の様子や会話を見聞きしてもらうわけです。

昨日は早速普通に会話している様子を撮影して、
お二人に見てもらい、
「気が付いたことを30個書き出す」という、
課題を与えました。
数を多くしたのは、より詳しくより細部まで、
自分自身のコミュニケーションの様子を、
見て欲しいからです。

そういった説明をしたり、指示出しをしている間にも、
勘違いや聞き漏れによる説明のし直しが結構あって^^
前回はジャッジ(見極め判定)なのでスルーしましたが、
今回は改善の研修なのでその都度言葉に出していきました。

    *    *    *    *    *    *

自分達の会話の様子や、私との受け答えを、
ビデオで見たお二人の反応はかなり衝撃だったようです。
ですがとても的確に30個書き出してくれました。
二人の感想をひとことで総括すると、
「こんなはずじゃない」というのが全体の感想とのこと。
そうそう、それを感じ取ってね。

それと同時にこの作業が二人にNGを突き付けて、
ダメ出しをするのものでは決してないということをわかってください。
そのために必ずそれを補足します。

「皆さんは自分の職場での動きを、
ビデオで見る機会ってありますか?ないよね。
だから今日はとっても貴重なチャンスと思って欲しいの。
これは皆さんにダメ出しするためにやっているのではなく、
皆さんが自分達の様子を自分で見て、
他の人にはどう見えるのかを知る数少ない機会なので、
ラッキーだと思ってリラックスして見てみてね。」って。

そう説明することで、不要な不安や恐怖感から解放して、
こころの目と耳を閉じないで欲しいんだわ。

そしてそのあと、
私達3人は二人の30項目をシェアし合い、
それについてのお互いの感想や雑談をいい感じで交わしながら、
あっという間に場が和んで来ました。
私は、そろそろフィードバックのタイミングが来たかな、
と思いました。

    *    *    *    *    *    *

向井さんが書き出した「自分を見た感想」は、
的確ではありますが、私から見ると表面的で、
まだまだ深い核心には触れていない気がします。

そこで話し合いの後、最後に言いました。

「じゃ最後に今度は私が自分で感じたお二人の特徴を、
ここで言ってみてもいい?」

「もちろんです!」(二人)

「了解!
斎藤さんは確かにちょっと怖いよね。笑顔がないし声も暗い。
それともうひとつ気になったのが、今言われたことを、
すぐに忘れちゃうよね?(はい(笑))
さっきも、『3つずつ読み上げて』と言ったのに、
それが頭に入っていなかったよね、聞こえてた?
(それが…覚えてません。。。)うんそうだね。
その前も、『今のをメモしてね』と言われた内容を、
覚えていなかったよね?(はい)それが課題かな。」

「向井さんはね、質問と答えがズレるときがあるね。
(はい、よくそのように言われます)
あ、そうなのね。それってなぜかわかる?
(わかりません)
それは向井さんが、相手の人の質問の目的を、
キャッチするのが苦手なタイプだからだと思うよ?」

「目的…ですか。。。」

「うん、そう、目的。
人ってね、会話をする時は、
いつも心の中に何かの目的を持っているの。
このビデオも私が『どう思う?』と聞いたときは、
心の中で『向井さんが自分の何かに気が付いてくれないかなー』
と思っているの。
だから、そこで向井さんが「自分の○○に気が付きました」
と答えてくれるとうれしいし、すごく満足するんだけど、
さっきみたいに『カラスの鳴き声がうるさいと思いました』
と言われると、期待した答えと違うから、
満足できない気持ちになっちゃうんだよね。」

「あああああーー、それすごくわかります。
そうなんです。そうなんです。
それは自分でもわかっているんです。
でもそれがわかるまですごく時間がかかるんです。
そうやって一生懸命考えていると、
相手の人は待てないみたいで、
嫌な顔されたり、怒られちゃったりするんです。
だから私、考えるスピードをもっと速くして、
短い時間にもっといろんなたくさんの事を、
考えられる人になりたいんです。」

「あぁ、そうなのね、なるほど。
そういうことは確かにあるよね。」

「私はこのたび働いてみて、
世の中が自分に要求するスピードは、
ものすごく速いのだとわかりました。
そしてそれに応えなければいけないとわかったときに、
自分にとってはとても高いレベルのものを、
要求されているのだと知りました。
それを直したいんです。」

向井さんって本当はとってもクレバーな人なんだな。
私、アスペルガーじゃないかと(自分が)感じる人が、
ここまで的確に現状を訴える発言は、
初めて聴いた気がするし、心から共感できました。
そうなんだよ、そうなんだよ、と心の中で、
深く同意している自分がいました。でもね…

「向井さん、それは直りません。
直らないと思った方がいいです。」

「直らないんですか?」

「はい。あきらめてください。
なぜならそれは持って生まれた資質だからです。
顔のつくりや髪質や手足の形がひとりひとり違うように、
物事を考えるスピードも相手の目的を察知する力も、
生まれつきのものなので、
基本的に変えられないと思って下さい。」

向井さん、ごめんね、こんな言い方して。
そしてこのブログをお読みの皆さんも、
決していい感じを抱かないのはわかっています。
でも欠点の多い私が自分の事を考えると、
そう観念したときから成長がスタートしたんです。
「この資質は変わらないんだ」と腹を決めた時から、
それを補う行動の工夫をよく考えるようになって、
結果的に”自分が変わってきた”んです。

「だから、いいですか?よく聞いてください。
直らないのに『直る』事に時間とエネルギーを注ぐよりも、
最初から『直らない』と仮定して、
『だったらどうするか』を考えて行動を変えていった方が、
楽に早く世の中に適応できるんです。」

「あのー、ひとつ質問してもいいですか?(もちろん)
『直る』ことと、『行動を変える』事は違う事なんですか?」

「違います。
『直る』というのは考えるスピードが速くなること。
『行動を変える』というのは、
まずそれが一生直らないと仮定したうえで、
それを補う工夫を自分でしていくことです。
直らないものに対して、無駄な時間をかけるよりも、
『直らない』と心に決めて、対策を考えて実行するほうが、
結果的に早く確実に自分を変えていくことができます。」

「そうなんですか!」

「そうです。
もしかして自分の特徴をダメなものと思っていませんか?」

「へ?」

「考えるスピードが遅いのは決してダメな事ではないですよ。
余計な事が思い浮かばず物事に対して寄り道をしないので、
考えるスピードが速い人よりもずっと成功しやすいです。」

「そうなんですか?」

向井さんの表情が薔薇色に変わった気がしました。
向井さんと、隣の斉藤さんは、誰に言われるでもなく、
ものすごい勢いでノートに私の一字一句をメモし始めました。

「もちろんです。
他の人の会話の目的がわからないのもいいことです。
相手の目的がわかる人は相手に合わせようとして、
自分のやりたい事や言いたい事をすぐに引っ込めますが、
目的がわからない人は自分の意思を曲げないので、
それが強さとなって、仕事でも実績を出しやすいんです。
だから、自分の事を決して『ダメなやつ』って、
思ってはいけません。
思ったら本当にそうなっちゃうんだよ?
なぜなら人の脳の仕組みってね、
自分が思った通りになるようにできているんだって。
わかった?」

「はい!」(ふたりとも)

    *    *    *    *    *    *

…と、ここまではまずまずよかったんですが、
この後、研修は思わぬ方向へ。

このあと、私は自己価値やセルフイメージついて。
そして人の資質やタイプ分けについて少し話したのですが、
頭に書いて説明した何かの時に、
「こういう特性も極端に度合いが強いと障害になっちゃう時もある」
ってつい言っちゃったんですよね。。。

そうしたら予想外に向井さんの食いつきが強くて、
「それはどういう意味ですか?」という質問が来ちゃったの。

だから私は、自分を例えに出して、
「私はこういう特性を持っているから、
自分ではADHDの傾向があると思っているし、
皆同じように、誰にでも可能性はあるんじゃないかな」
と答えました。

そしてそのあとは、何パターンかロープレとトライアルをこなし、
初日は終了…のはずだったんですが、
片付けながら談笑していると突然向井さんが、
「先生、私、実は精神科に行こうと思っているんです」と。

どひゃーと思って無言で顔を見つめると、
「先生、私、絶対何かの障害だと思うんです。
だから早く診てもらいたいんです。」

「そうなの?
障害と言うのは生活に支障が出るレベルということだよ?」

「もうすでに支障が出ているんです。
担当の鈴木さんにはもう言ってあるんですが、
『どうして行きたいの?』と聞かれても答えられませんでした。
でも今日の研修で、
先生がさっきADHDという言葉を出してくれた時に、
なんだかものすごく安心して、『言ってもいいんだ』
と思いました。
鈴木さんは私が体調悪いんじゃないかと、
心配してくれているんですが、
そうじゃないということを、
このあとにきちんとお話したいと思います。」

えーーーー、これは予想外の展開に。。。
しかも、他の人にも話しがよく聞こえるこの場所で、
この声の大きさで…(やっぱりアスペさんなんだよね^^)

    *    *    *    *    *    *

研修後の担当者さん(30代前半/女性)との打ち合せ。
みんなはもう帰りました。

「向井さん、自分でわかっていたんですね。
やっぱりそういうものなんですね。」

「そうだったんだね。
なぜ自分はこうも受け入れてもらえないんだろうという、
不条理感と欠落は常にあると思うから、
きっと自分に対してものすごく真剣に悩んできたんだね。」

「彼女、賢い人ですよね。」

「同感。でもさ、
なんでアスペルガーという言葉を知っていたんだろう。
私はADHDしか言ってないのに、
さっきアスペルガーって自分から言ったでしょう?」

「あぁ、それ、思い当たります。
たぶん向井さんは過去に病院に行っているんだと思います。
そういえば、それの何かを『お見せしてもいい』と、
言っていたのを今思い出しました。」

「そっか。。。過去に病院、行ってるんだ。。。
どうするの?会社として。
続行を願っているの?終了を願っているの?
そこを意識合わせしていなかったので、
私も対応に判断がつかなかったよ。
ごめんね。確認しておけばよかった。」

「私にも判断がつきません。
上と相談してみないと。」

「そう。そうなのね。」

私は本当はさ、向井さんの成功を見てみたいよ。

彼女、絶対に言わないけれど、
中学と高校で苛められていると思うんです。
だってその頃の思い出を尋ねると、
表情が苦しそうに歪むんだもの。
「あぁ、辛かったんだね」と思いながら、
でも実際は触れずにスルーして会話を続けたさ。

そんな経験のある人は、
ここから先はあんまり不幸になって欲しくないんだな。
今のこの場ではいい結果が得られなくても、
それでもそうじゃないところで、
少しでもうれしい気持ちや楽しい思いをして欲しい。

「直らない」と即答したのは、
私の優しさでもあり冷たさでもあるけど、
「今から、ここから」という思いに変わりはないの。

研修はあと二日。
明日は明日で何かが待っているんだろうと思います。

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2013.01.08

主任の涙

皆様、あけましておめでとうございます。
最近は更新も少なく、以前にもまして放置状態の、
「ぷらたなすのひとりごと」ですが、
今年もどうぞよろしくお願いいたします。

最近は電話応対の研修がたまに入ります。
コールセンター出身とは言え、
当時のセンターは研修も皆無に等しく、
私自身もいわゆる正しい「電話応対」を、
一度もきちんと教わったことがないまま、
いつも雰囲気と成り行きで適当に対応して来ました。

なのでそんな研修は自分には無理
(できればやりたくない、正統に教えられる自信がない)
と思っていましたが、
だったら自分にできる内容の研修をやればいいと考えを変えて、
ロープレ⇒録音⇒フィードバック⇒ロープレ⇒…を繰り返す、
トレーニング的な研修を今はやっています。
これならできるさー、敬語とか全然触れないしね(笑)

そして意外にも、敬語や言葉遣いを主体にしたものより、
どうやらそちらのほうが企業さんのご希望に沿う事も多く、
結構反響が良いので気を良くしちゃったりしています^^

    *    *    *    *    *    *

さて年末は、3回連続で、
イベントホールさんの内勤女性社員の方を対象に、
電話応対研修を行いました。
「好感の持てる名乗」「金額の問合せ」
そして「来場者への道案内」の3つにテーマを絞り、
前述の形式で行いました。

自分の話し方を録音で聞くと、みんなびっくりしますよね。
「思った以上に声が事務的」「口調が荒い」「暗い」「早い」
など、皆さんが勝手に気が付いてくれるので、
講師としては楽ですねー(笑)

毎回回収しているアンケートを眺めてみると、
「衝撃」「驚愕」の文字が多く使われており、
自分の話し方を客観的に聞く事で、
自分が思っていたものとはかなり違うという事に気が付けば、
それだけでも改善していくものだと思っています。

そして最終回。

回収したアンケートを見て、ふと手が止まりました。
書き間違えた箇所に訂正印が押してあるのです。

研修自体は私のキャラクターもあって、
わいわいガヤガヤとリラックスした雰囲気のため、
アンケートもそれを反映して賑やかです。
☆マークや♪マークや顔文字も多いし、
少々の書き間違いはどの人もボールペンで、
ぐちゃぐちゃ塗りつぶしたりして訂正しています。

でもその方は、二か所に二本線を定規で書いて、
訂正印を押してありました。
それを見た瞬間に、あー…と思いました。

この方はきっとアスペっこさん的な方だと直感しました。
だって普通、こういったアンケートの文字の書き直しごときに、
訂正印なんて使わないって。

その方、Aさん(20代女性)はちょっと幼い感じの雰囲気と、
がり勉さんのような(どこかオタクっぽい)顔立ちで、
研修中、定型トークは絶品のうまさでしたが、
臨機応変の応対になると大いに焦って言葉が出ない方でした。

「これはちょっと…」と思うところがあり、
思慮深く穏やかで優しい50代後半の、
ショートカットの主任(女性)さんに声をかけました。
「あの…少しだけいいですか?」

    *    *    *    *    *    *

主任さんに、他の人達に声が聞こえない、
部屋の片隅未来てもらい、
アンケートをお見せしました。
「これ、Aさんのアンケートなんですが見てもらえます?」

「はい…」

「ここに二か所、訂正印が押してあるでしょう?
でも普通は、こんなアンケートの訂正ぐらいで、
定規で二本線は引かないし、ハンコも押さないと思うんです。」

「あぁ…」

「この方ってもしかして、
場が読めない感じの人じゃないですか?
もしかしたら、クレームとか多くありません?
他にも、皆さん、この方で困っていませんか?」

「あぁ…」

主任さんはすぐに話を続けました。

「先生(今はそう呼ばれることも多くなりました^^)、
実は、今回の電話応対研修は、
彼女のための研修なだったんです。」

「えっそうだったんですか!」

「はい。」

今度は私が「あぁ…」ですよね。。。

「やる気はあって一生懸命なんだけど、
それが空回りしているというか、
私達もそれがいつも悩みの種でして、
それで今回、研修でもやってみようか、
という話になったんです。」

あー、そうだったんだ。うーーーーーん、
だったら本当は最初からそう言って欲しかったなぁ。
そしたら、彼女に対してはもっと違うアプローチができたのに。
敬語も言い回しも妙に綺麗で、
言われたことならその場できちんとできるので、
研修中は気が付かなかったよ。。。

でも仕方ないね、そういう事に精通していないと、
第三者(外部講師)に伝えるべき情報とは思わないでしょうし、
思いあぐねて「まずは研修」と思ったんでしょうね。
それしか手段が浮かばなかったのだと思います。

ですが短いその話を伺っただけでも、
彼女はやっぱり、少々アスペルガー的なところを、
持っている人なんだろうな、と思いました。

が、それなら「電話応対」だけ普通に指導しても、
あまり改善にはならないと私は思いました。
そこで「なんでわかったんですか?」と驚いている主任さんに、
少しお話をしてみました。

    *    *    *    *    *    *

「アンケートに訂正印」って普通は悪くない行動ですよね。
生真面目とは思うけど、でも別に?って感じですよね。
ですが、主任さんはアンケートの記述をちょっと直したい時に、
二重線引いてハンコ押しますか?

「いえ、自分は押さないですね(笑)」

「ですよね。二重線と訂正印は、
金銭の帳票や公的な文書ならわかりますけど、
ここではやらないですよね。
と言うことは、Aさんて物事の受取方や価値基準が、
他の人とちょっとずれている人だと思うんです。
タイプとしてこういう方ってたまにいらっしゃるんですよ。」

「あぁ、そうなんですか。他にもいるんですか?」

「いらっしゃいますよ。よくご相談を受けます。
たとえば、今それをやるべきではないようなときに、
他の人と違う事を延々とやっていたりしませんか?
やって欲しいと思う事をやらずに、
必要がない事をやったりしませんか?
あとは…音に敏感だったり、
電話応対ではお客様と噛み合わなかったり、
伝言や引継などでは、肝心な事が抜けていて、
ちょっとしたトラブルになったりとか…」

「えぇ、えぇ、えぇ、えぇ、全部あります。
どうしてわかるんですか?本当にそうなんです!
音に敏感…うん、そうそう、
部屋の隅で個人面談していても、
誰かが横を通り過ぎると、
そっちの方をずっと見ちゃうんですよ。
それで私がいつも、
『こっちを見て話しをちゃんと聞きなさい』って、
毎回注意するんです。仕事も、えぇ、ホントそうなんです。
なんっか、優先順位が違うんですよ。。。」

「そうですよね。イライラする時もありますよね。
でもAさんみたいな方は、
自分の今のその行動で他の人がどんな感情を抱くか、
察知するのが苦手なんです。
そういうタイプだと思ってください。」
(さすがにそれがアスペルガーとは言えず…)

「あぁ、他にもいるんですか、あぁ、なんか、
今、ものすごく納得した気持ちになりました。
納得して感動しました。感動と言うのも変なんですが、
うん、やっぱりこれは感動です。はい。」

「わかります、私も初めてわかったときはそうでした。
でもね、もしそうだとすると、この電話応対の研修では、
そんなに改善しないと思うんです。」
(講師としてこんな言い方もないよなぁと思いつつ^^)

「では、どうすれば…」

「考え方としてはね、
非言語を理解できないと思ってみてください。」

「非言語?ですか?」

「はい。
もしかして『もっと常識を持って』とか、
『周りをよく見て』とか『何が大事かよく考えて』とか、
そういった指導をしていませんか?
でも『常識』ってなんでしょう?
『周り』の何を見てどうすればいいんでしょう?
『何が大事』かよく考えても全くわからない場合は?
そこを言語化してあげないと理解しづらいんです。」

「あー、やってました、それ!
確かにそういう言い方をしていました。
なるほど、具体的に言葉で言えばいいんですね!」

この主任さんは、本当に察しのいい方で、
これだけの言葉ですべてを理解した感じでした。

「はい。言葉で”具体的な行動”として教えてあげないと、
このままだとご本人も辛いと思うんです。
例えば、『周りをよく見て』と言わずに、
『他の人がお掃除しているときは一緒に掃除をしてね』とか、
『退社前の1時間は◯◯と××を一番先に終えてね』とかです。」

「なるほどー!!!
言われてみれば、今までは、
Aさんには伝わり辛い指導をしていたと思います。
早速明日から試してみます。」

「ぜひそうしてください。
そうじゃないと、周りもみんな大変だし、
職場がギスギスし始めるし、
主任さんだって胸が痛むし…辛いでしょう?」

「はい。」

主任さんの顔を見たら、目に涙がにじんでいました。
大変だったんだね、きっと今まで。

「すみません。なんか泣けてきて。。。
これ悲しいんじゃないんです。
感動の涙なんです。私、変ですよね。」

「いえいえいえ、全然変じゃないですよ。
こういう事って、どうしたらいいかわからないし、
解決方法があるのかどうか…
はたして誰かに相談できるものかどうかも、
見当がつかないし、私もそうだったから、
すごくわかるんです。
でも一番つらいのは、Aさん自身だと思うので、
Aさんのためにもぜひそうしてあげてくださいね。」

「はい、ありがとうございました。」

    *    *    *    *    *    *

残業時間に行った研修だったので、
外に出たら星空に息が白くて、
足元は日中溶けた雪がまた凍ってツルツルでした。

主任さんが車まで荷物を運んで見送ってくれたので、
敷地を出る前に深々と頭を下げる主任さんに、
もう一度車の中から一礼して道路に出ました。

こんな日は、このまままっすぐ家に帰りたくないね。
ハンドルを握りながら、一瞬視線を夜空に移して、
ふーっとため息が出ます。
職場の「困ったさん」はどこにでもいるけど、
みんなどうしていいかわからないんだよなぁ。

でも今日の優しい主任さんのように、
Aさんのあれこれに悩みながらも、
決してAさん自身を憎んだり嫌ったりしていない人に会うと、
ちょっと話をしただけでも、
深いところで分かり合えるんだね。

それが嬉しかったんだな、私も。
決して明るい話ではありませんが、
仕事納めの日に不思議な暖かい気持ちで、
1年の仕事を終えることができました。




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