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2007.05.20

仕様書を咀嚼する人

金曜日は林田さん(20代後半男性/仮名)に、
自分が研修を受けた。

顧客検索システムがバージョンアップしたのに伴い、
追加された機能や新しい検索のノウハウを、
自分に落とし込んでもらったものだが、
通常私や班長などリーダー格のメンバー、それに正社員達は、
課単位で研修(説明会)が開かれても、緊急案件のお客様対応や、
重要度の高い対外的な別の会議の予定が入っている事も多く、
機会があってもなかなか100%確実には参加できない。

また、そうでなくとも、
前線から少し離れたポジションにいる私達は、
「利用頻度の高いフロントのオペさんが最優先なので、
皆さんは時間のあるときに個々に習熟しておいてくださいね。」
「皆さんは、リーダーさんだし、特に丁寧な説明をしなくても、
マニュアルを見ればだいたいわかりますよね?」
などと十把一絡げに後回しにされがちで、
研修に参加できなくても誰も気にしてくれないのだが(笑)、
今のように新人研修を担当していると、
「それについて自分がスタッフよりも知らない」
というわけにはいかない。

なので、今回取りまとめを担当している林田さんに、
「スタッフの皆さんが受けたものと同じ研修を自分も受けたい」
とお願いしたところ、一発で主旨を理解してくれ、
週末なのに遅くまでの個別マンツーマン研修を快諾してくれた。
これは非常にありがたいです。

林田さんはクライアント企業の準社員なので、
協力会社社員の私よりも立場が上になるが、
20代後半で(私から見ればずっと)若いのに、
地力のある本当にいい人だ。
ちょっと頑固で細かいけれど、
仕事に対して誠実であるがゆえのこだわりなので、
私は全く気にならない。

いつも薄々感じているのですが、
現場に入ってくる契約スタッフの、
新人研修を担当する事の多い私に対しては、
何を教えるにも引いてしまう気持ちが正社員達にはあるようで、
今回のように私への落とし込みをお願いしても、
「ぷらたなすさんは…うーん、ま、自分でやってよー(笑)」と、
断られてしまうんですが、「だって時間がない」っての、
あれは半分ウソだな~。

あまり他人に物事を教えた事のない正社員達は、
"研修担当"に研修するのは足元を見られるようで、
多少の恐怖感があるのだろう(笑)

元々研修は私の本来業務じゃないんですが、
問題の出たスタッフさんのフォローアップや、
年度初めの新人研修などで、
気がつけば昨年の冬からずっとインストラクター生活。
誰かに何かを教えてもらうというのは本当に久しぶりで新鮮だね。
教わるほうの気持ちというものも、もう一度思い出そうかな。

    *    *    *    *    *    *

さて、林田さん。

私は研修として彼に何かを教わった事はないんですけど、
仕様書とノートを置いて、
ホワイトボードの前に立つ彼の言葉に耳を傾けると、
本当に、うまい、うまい、要点を抑えるのがうまく、
メリハリがあって何が重要なのかとてもわかりやすい。
下地の全くない更地のような頭の中に、
柱を立てて家ができていく感じだ。
(あ…こんな事を思いながら受講するから
やっぱり煙たがられるのだな??^^;…)

が、その彼が何度か同じセリフを繰り返し、
随分強調するなぁ…と感じた解説があったので、
「なぜ?」と気になって尋ねてみた。

(林田)
「これで俺の説明は終わりですけど、
なにかわからなかったり見えにくかったりした点はありますか?」

(ぷら)
「あのー…変な事聞いてもいい(笑)??
さっきから
『本体購入から一週間後以降にオプションを買った人は、
メーン画面ではなくこっちの備考ボタンを押すんです!』
って何度か強調して解説してもらったんだけど、
今回はやむを得ずそうなってしまったイレギュラーな仕様で、
次回のバージョンアップまでに改善予定であるのは、
それはすごくわかったのね。」

(林田)
「うんうん。」

(ぷら)
「でも、リリースに間に合わなくて、
苦し紛れの変な仕様になっているところは、
ほかにもいくつかあったのに、
これだけ特に強調したのはいったいなぜ?
それ、ちょっと気になったのね。

ほかの部分と違って、
林田さんしか知らない何かの裏事情があるとか、
ここだけは注意すべき理由が別にあるとか、
そういう事?だから何度か強調したの?

もし今後起き得るトラブルがすでに予測できているのであれば、
林田さん自身が杞憂と感じて今回口に出さなかったものでも、
念のため一応教えてもらえませんか?
私も気をつけるしスタッフさんにも注意を促すから。」

林田さんは、「あー…」と言いながら黙り、
少し考え込んだあとこう言った。

(林田)
「それはですね、つまり、うーん、
それは、そう言われてみると俺自身の問題だと思います。」

(ぷら)
「俺自身??」

(林田)
「うん、そう。実はお恥ずかしい話なんですが、
今回の研修をするために事前に取り寄せた仕様書というのが、
完成前の草稿版で、解説もすごくとっ散らかっていて、
一読しただけでは、いったい何がなんだか、
俺自身はさっぱりわからなかったんですね。

いったいどこがどう改善されていて、
問題点として残っているのはどの部分で、
使う側の人達は、それに対してどんな注意を払えばいいのか。
それが全然見えなかったんですよ。」

(ぷら)
「あぁ…わかります。
いっちゃん最初の草稿版の仕様書って、
ホントにわかりにくいもんね。
仕様書として完成する前のヤツは、
確かに使う側の身になっていない記述も多いわ…」

(林田)
「ですよね。それで俺、イマイチよく見えないんで、
一個一個の機能に対して開発に確認とかして聞いたんですよ。
『じゃぁ、実際にこれを使うフロントのオペさんは
いったいどこに気をつければいいの?何がキモなの?』って。

そしたら先方が言うには、
『発想としては本体購入日から、
オプション購入までの経過日数です』
っていう回答なのね。

で、俺、一生懸命個々に散らばっている記述を統合して考えて、
そうか!要は"本体と特定オプションの購入日の差が一週間以上"
という事だけに気を配ればいいんだな!!と理解したわけですよ。
そんな風に咀嚼できてすっきりシンプルに整理できた事が
個人的にとてもうれしかったわけですよ!!おー!とか思って。」

(ぷら)
「なるほどー!!うんうん。」

(林田)
「だから、先ほどのぷらたなすさんの質問に対する回答としては、
『俺がうれしかったから』という事になります(笑)。
発見してとてもうれしかったので、ついつい強調してしまった。
要するに俺、単にうれしかっただけなんですよ。
それでこの解説をするときだけは、
妙にテンションが上がっちゃうんですね~♪
ねーねー、みんな、聞いてくれない?♪みたいな(笑)。
これが正解です(笑)。」

私と林田さんは、あはは、と大きな声で笑い合った。

でも私ね、この林田さんの回答を聞いて、
正直「すごい!」と思いました。
意外な正解ではありましたが、
私が知りたかった事と寸分のズレもなく、
しかも短い時間に「そういえばこうだった」と思い出して、
非常に素直に自分の心情を吐露しているんですよね。

なんか私、研修でいろいろ教わった事よりも、
そちらの方に妙に感動してしまって、
思わず、「林田さんてすごいね?」って言っちゃいました。
そして自分としては、そこには大きな共感がありました。

研修室に施錠して二人でオフィスに引き上げてくる間、
「林田さん、今回の研修、仕込がすごく大変だったでしょ?」
と私は彼に聞いてみました。

研修に要した時間は一時間半、
私はその時間内で大体の機能とポイントがよくわかりましたけど、
そんな短時間で相手に概要を理解させるためには、
教える側が一度全部身に入れてみて、
その上で使う側から見た重要点とそうでない点を整理して、
さらに教わる側の思考に沿った説明の順番と組み立てを、
時間をかけて煮詰めていかないといけないんですよね。

しかもこの資料。
仕様書本体にオリジナルに編集した簡易版が添えてあって、
そちらは私達の利用に関係のないところは、
思い切って潔くはぶいてある。
そのかわり今回の注意点のピックアップリストが添付。
それらはかなりの膨大な時間を要すると思うの。
だから林田さんは相当大変だったんじゃないかと。

(林田)
「そうなんですよ、ぷらたなすさん!
俺今回の担当になったとき、どうしようかと思いましたもん!
正直途方にくれました。一発目の仕様書があまりにひどくて。
これじゃ、とてもとてもこのままオペさんには渡せないや。
使えねーーと、思わず頭抱えてうなっちゃいましたもん。」

林田さんは、大げさに泣き真似をしたけど、
それ以上多くは語らなかった。
でも、本当にしんどかったと思う。
それがあの「強調」の理由だったんだな。

私は素人なので、
システムの仕様書がどのように精査されていくのか、
そしてほかの会社がどうなのかは全然わからないけれど、
フロントのスタッフがどんなときにどんな検索をするのか、
開発側が熟知していないと、
仕様書もバラバラで細切れの機能の羅列になってしまい、
最初のものはかなり読みにくい状況はよくわかる。

そこをまず改善しろって話が先決だとは思うが、
それをそのまま伝えて問題を感じない人とそうでない人がいて、
「それじゃ嫌だ」と思う人は、
教えるという行為に明確な目的とポリシーのある人だと思う。
同じ教わるなら、私はやはり後者に教わりたいかな。

そういう手間をかけるかかけないかで、
スタッフさんの理解や習熟がものすごく違ってきちゃうんだよね。
そしてそこに配慮できる人は、実は説明も教え方も大変うまい。
そうやって短時間で合理的な研修ができる担当者は、
何を教えても効果的にやってくれて皆の信頼感が厚いし、
そうでない人は時間をかけても最後まで退屈で意味不明。
あくびで始まりあくびで終わるという気の毒な話になる。

こういった組織としての研修は社員の持ち回り制なのですが、
担当が林田さんと聞くと、スタッフの間に強い安堵感が広がる。
これもまた(たぶん)半分以上が天性のもので、
向いていない人はそれもまた仕方ないと思うけど、
結果の差が大きいとこちらとしてはやはり気になったりしますね。

スタッフさんも本当は、
マニュアルを手渡して自助努力をしてもらうべきなんですが、
スタッフさんの中にもこれまた様々な差があるので、
お客様相手に業務品質を保つためには必須のように思う。

ところで林田さんの目下の不満は、
物事に対して自分の考えや提案を述べると、
それがいつの間にか自分の仕事になってしまっていて、
気がつけば、「それじゃ、林田君頼むよ!」という感じで、
思いもよらなかった仕事が、
次々と自分に集中してしまう事だという。

社員には社員側の問題があるのだろうが、
それは面倒な事には関わりたくない思いのほかに、
割とたくさんの人達が彼に対して、
仕事上のコンプレックスを持っているのかもしれないな。
私の目から見ると彼に仕事が集中してしまうのは、
ある意味当然のような気もする。

それを心地いいと感じて快く前向きに受け入れるのか、
「それは違うだろう?」と思って異を唱えるのかは、
林田さんの性格次第と思うけど、(現状は後者)
元来、そこまでウルサイ人ではないので、
今は少々彼のキャパシティと堪忍袋の、
限界を超えてしまっているのかもしれない。

ま、でも新婚さんだからねぇ~。
そりゃ、早く帰りたいだろう(笑)。
(本人曰く、うちはお互いバラバラに
好きな事をしているからそれはない、と。)

取り合えず自分のために時間を割いてくれた彼に、
申し訳ない思いと心からの感謝の意を伝えて、
私は残業の職場をあとにした。

ちなみにうちの長男は彼の7歳下であるが、
7年後にそうなるとはとても思えない事、
そして本日のタイトルは音読するととても読みにくく、
新しい早口言葉として普及させたい思いに強く駆られた事(爆)、
蛇足ながらこの二点を最後に付け加えておく事にします。
 

 
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コメント

相変わらずのすばらしい長文、毎回楽しく読ませてもらっています。
ちょっと気になったのですが、これくらいの文章書くなのに何分くらいかかるのですか?

仕事上、読まれる長文が書ける様になりたい今日この頃、長文を書くコツを教えて頂けませんか?


そしゃくって単独でも言い辛いですよね。
朝食を咀嚼昼食を咀嚼夕食は鑠鑠(しゃくしゃく)

----------------------------
パシフィカスさん、こんばんは!お褒めに預かり大変うれしい思いです!でも読み返すと「この辺がくどくて流れが悪いなぁ…」なんて、自分では結構未練がましく後々まで手を入れたりしているんですよ。(今も気になっている部分がある→このあと修正予定(笑)!)時間は一気に続けて書いた事があまりないので把握していませんが、このぐらいだと1時間半ぐらい…かなぁ…私、そんなに早くないので、内容によっては何日かに分けて書くときも多いです!なぜ長くなっちゃうかと言うと、言いたい事がやけに一杯あるからで(汗)、しかも実際にあった事であるため、頭の中で場面場面を再現させて写し取り、そこに自分の心情を織り込んでいるうちに、こーんなに長くなってしまうんです。。。(というか、レスも毎回長いので少々気にしてます(笑))私の場合は結果として長くなってしまうんですが、とっつきが悪く読んでもらえないのでは?と、自分では気になっているんですよね^^;。全然関係ないのですが、「そうだ!早口言葉だよ!」と気がついて、今日の研修のロープレでは早速それを使ってみました。笑いが起こってムード作りになかなか効果的でしたが、さすがに「仕様書を咀嚼」は使えませんでした!
----------------------------

こんな長文の返信なんだか恐縮です。。

一気に書いてたんじゃなかったんですね。
でも、こんだけ完成度の高い文で1.5hなら早いんじゃないですかね。

長文を嫌う人もいますけど、個人的には読みやすい長文は大歓迎です。これからも面白い長文期待しています^^

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