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2007.02.12

厄介な人7~直訴

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翌日、穣太君が普通に出社してきた。
「おはようございます」
ブスっとして不機嫌そうな声だ。

穣太君は好きな話をしているときは、
若者言葉満載で饒舌によく語り、よく笑う。
本当は調子のいい話好きな男の子なのに、
由香さんと縫子さんの間に挟まった席に移ってからは、
ずっと表情に笑みがない。

理由を説明して席替えの指示を出したときに、
彼はものすごく不安そうな顔をした。
それまでの席は年格好の近い、
前原君と山崎君に挟まれて、
たぶん彼なりに楽しく幸せな日々だったのだ。

「どうしてこっちに来なくちゃいけないんですか?」
「だって研修だから仕方ないでしょ?でも、どうして?」
「え、だって男の人のほうがいろいろ話も出来るし、
女の人だと何を話していいかわかんないし…」

縫子さんが少し前に言っていた。
「あの子はね、職場に仕事しに来ている感覚がないんですよ。
好きな話をして受けて盛り上がって毎日楽しいだけなのが、
仕事だと思っているんです。
職場は、友達探しや出会いの場じゃないんだからね?って、
もう、すごく言いたいですよ。」

そんな事を思い出しながらふと気が付くと、
穣太君が課長の席に行って何か話しているのが見えた。
課長が急いでこちらに来て、私に耳打ちした。
「納得いかないって、私のところに直訴しに来ました。
彼、なんかやばいかも。まずは職場に入れないで、
下で待っているように指示しましたから、
すぐに私と内海さん(主任)で話を聞くことにします。
ぷらたなすさんも立ち会ってもらえませんか?」

「あ、そうなんですか。わかりました。了解です。
それじゃ穣太君を案内して下の接客コーナーで、
待っています。」

「頼みます。」

課長と内海主任と私。
私達三人は、朝礼も全員無断で欠席して、
1階の接客コーナーに急ぎ、
穣太君とともに、4人掛けの応接セットに座った。

ここ最近、こういった感じの出来事が増えてきた。
「さーて、今回はどうすっかなぁ…」と思うのみで、
心は驚くほど冷静だ。
私は時間の話の切り出し方、流れ、時間の配分や
進め方の組み立てなんかをぼんやり考えていた。

    *    *    *    *    *    *

全員が揃うと真っ先に課長が言葉を発した。
「穣太君が昨日の話に関して、
納得いかないって言ってきているんだけど、
な?そうだよな?穣太君。」
(お?今回は、課長が場を回してくれるんだ!)

「はい。」涙声にも聞こえる声で穣太君が頷いた。

「それじゃ、俺達三人で穣太君の話を聞くからさ、
ここはひとつ、今、どんな風に思っているか、
話して聞かせてくれないか?」

「はい、えーと、昨日3日も休んだので、
今日は会社に行こうと思って病院に寄っていたら、
突然ぷらたなすさんから電話がかかってきて、
今日は会社に来なくていいって言われまして、
それで桜カンパニー(仮名)の事務所のほうに、
来てくださいと言われまして、
突然、あと一ヶ月で成長しなければ、
クビだって言われまして…」
段々鼻声になってくる。

「でもー、今までみんなにそんな風に言われた事はないし、
班長の神田さんも、自分が何か質問すると、
『それでいいんじゃない?』とか、
『そんな事はユーザーに決めさせたら?』とか…

それに電話の中でぷらたなすさんには、
3日も休んでいるので、みんなが出社拒否症だと思っているとか、
そんな風に言われまして…
(なんだとっ!!言ってないベー、そういう言い方ではっ!)」

「穣太君、『もう来ないんじゃないかと心配している』って
私はそういういい方をしたはずだよ(笑)。思い出して?
出社拒否症という言葉は、私、使っていないよ(笑)。」
(われながら、詭弁だな…と思いつつ^^;)

「あー、なるほど!穣太君としては、
なんだか最近、悪く言われている話ばかりで、
今まで自分がイケてると思っていたので、
何で突然急に、こんな風な話になったのか、
どうしても納得いかないんだな?だよね?」
(課長)

「あ、はい。
それに…風邪を引く前に今野主任(今目前いるのは内海主任)の
定期面談があったんですけど、成績も悪くなかったし…

(あらら、実際は近い時期の入社スタッフ達のうちで
彼だけが合格点に満たず上位グレードに上がれなかった。
なので、他のスタッフ達はもっと得点が高い。
が、比較対象がないので、そう思われても仕方がない…)

今野主任からは、期待しているから頑張れよってすごく言われて…」

(なるほど、グレードアップしなかったので励まされたんだ…)

「なるほど!だからまさか昨日こんな話が出るとは、
思わなかったんだね?(はい)
それはね、俺が思うところどっちも正しい。
今野主任は今野主任で、
君の努力を認めてくれているんだよ。
だけど、実際にメールができなかったり…
君、入って何ヶ月だっけ?(8ヶ月です)
あ、8ヶ月ね。そのぐらい経っても、
まだシフトに入れないことは自分でどう思うの?」

「あぁ、それはやっぱり、
自分が仕事できないからだと思います。」

「そうだよね。だったらこの一ヶ月で
皆を見返すぐらいに頑張ってみたらいいんじゃないの?
穣太君はこういう仕事は初めてだっけ?(はい)
それじゃ尚更、最初からできないのは当たり前だ。
最初からできる人なんか居ないんだから、
それぐらい周りからいろいろ言われたって、
なにくそって見返してみろよ。」

「あ、はい。」

「それにさ、どんな理由があるにせよ、
仕事を3日休んだら、先輩達に迷惑をかけているわけで、
君はそれに対して、
一人一人謝っていかなくちゃいけないわけよ。
今朝、皆さんにお詫びした?」

「あ、いえ…」

「だめだなー、そういうのを礼儀って言うんだよ?
穣太君、職場ではさ、仕事と同じぐらい大事な事があって、
それは挨拶とかマナーとか上下関係とか、とにかく、
後輩なら先輩達のいう事は素直に聞くっていう事なんだけど、
わかるか?」

「はい。」

「俺もみんなから話を聞いたけど、
君のよくないところは、仕事の面だけじゃないみたいだぞ?
ちゃんと人の話を良く聞いて、指示を守っているかぁ?
どうやら先輩達は、そんな風に思ってないぞぉ?
穣太君、ひとつ俺の経験談を聞かせようか?」

以下、課長が若い頃、世間知らずの妙な自負心と反発心で、
自分が井の中の蛙だったと気が付くまでの失敗談や、
社会の上下関係やマナーや礼儀や暗黙のルールなどを、
わかりやすく穣太君に解説してくれた。

私は昨日の集会に同席してもらって、
本当に良かったとこのとき思った。
あれがなければ、課長は一様に穣太君の肩を持ち、
先輩達の言い分をこんな形できちんと伝えてくれる事は、
決してなかっただろう。

実はその日の朝、出社が早い私と課長は、
まだ誰も来ていないような時間に少し話をしていた。
「俺、そんなにみんながやりたくないのなら、
穣太君の指導のために、誰か一人社員をつけようかと、
本気で思ったぐらいだったんだ。

だけど、ほら、後半になって皆さんが本音を出し始めたら、
どうやらもう誰も穣太君と仕事をしたくないようで、
だったら俺がヘタに出て行って穣太君を延命させても、
もう皆さんの気持ちがそんな風になっちゃっていて、
彼を残す事で逆に班全体がガタガタしてしまうのなら、
俺は、「ん?ちょっと待てよ?」と考え直したんだよね。
だったら、やっぱりこのまま、「最後のチャンスを上げましょう」
という事でいいのかなって。
私、やっぱり、今居る長くやってくれているデキル皆さんを、
大事にしたいから、そのせいで退職者が続出したりしたら、
皆さんに申し訳ないです。

「しかもA班はこれから延ばしていく商品を扱ってますしね」

「そうなんですよ。来期には増員も掛けようかというこの時期に、
次々辞められる事だけは絶対に避けたいですから。」

    *    *    *    *    *    *

穣太君は昨日の私と今日の課長の話に、
不整合がまったくないので、
スタッフの一存や私個人や契約会社の独断ではなく、
それが企業として下された判断だと感じ取ったのか、
不満げな表情は消えて素直に課長の話を聞いていた。

が、今まで一度も「ダメだ」と誰からも言われていないのに、
なぜ急にそのような話になっているのか、
どうしても承服できかねるようで、
何を話されても、そこへの疑問に立ち返ってしまうのだった。

そこで課長が言った。
「いいか、穣太君。A班の先輩達は君よりも年上で、
全員社会人としても優秀な人達ばかりなのね。
で、大人は普通、相手を傷つけたくないから、
ダメだと思っても、本人を前にして直接『ダメだ』とは
言わないものなのね。ここ、わかるか?
そういうのが、世間とか、常識とかいうものなんだぞ?」

「だから君が、誰からも『ダメだ』といわれなかったからと言って、
それで自分がイケていると思うのは、実は大間違いだ。
仕事というのは、人から直接そういわれなくても、
できなかったり間違った事をしていれば、
周りの人はそう思うのだと、思ってください。
いいね?わかりますか?」

「はい。」
納得した返事には聞こえなかった。

「よーしわかった!それじゃ早速今日から、
ひとつ死に物狂いで頑張ってみるか?
A班の仕事はうちの課の中で一番専門性が高いので、
ここで仕事覚えたら、ものすごいエンジニアになれるぞ?
(え…それはちょっと言い過ぎじゃ…課長^^;??)
君、今までオフィスで働いた経験がないんだよね?
じゃー、社会勉強もこれからだな。な?頑張れよ?」

「はい。」

「オーケー!!!
じゃぁ、どうする?ぷらたなすさん?
神田君を呼んでくる?あと、由香さんかな?」

「はい。神田君にも入ってもらって、
もう一度全員で意識合わせしたほうがいいですね。」

そして二人が加わり、6人になった。
神田君はここではっきり言うべきだった。
なので、神田君

「穣太さん、いいですか?
世間ではダメな人に向かって
オマエはダメだなんて、絶対に言いません。
そういった社会の暗黙のルールや場の空気を読める事も、
仕事人として必要なスキルです。
言われないからと言って、
これでいいと皆が思っているなんて、
絶対に思わないで下さい。(キッパリ)
君は気が付かないかもしれないけれど、
先輩達はそれぞれに、
長い間君に対していろいろなサインを送っています。
そういったところに気が付かないなんて、
それは君の努力不足です。
言葉に出てくる事だけじゃすべてじゃありません。
むしろ言葉にならない事のほうが、
世の中では大事なんです。」

「そうだっ!いやー、俺が一時間掛けて言いたかった事を、
神田君に5分で言われちゃったな~(笑)、
いやぁ、参ったなぁ(笑)」
課長が大きく笑って一同を「さ、行こう!」と促し、
その場はそれで収まった。

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