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2006.04.08

志(ココロザシ)を抱くな

ポイント制の導入に関して質問があったので、
昨日は久しぶりに科与子さん(30代前半/女性スタッフ/仮名)
と休憩室で話し込んだ。

科与子さんとじっくり話すのは、1月の飲み会以来。
「毎年出しているのに、
 扶養控除申請は未だにどう書けば言いか迷うので億劫」
という話題で前回は盛り上がったんだっけ。
彼女は今年も記入欄を間違えてこちらから修正をお願いし、
ぎりぎりセーフで間に合ったのだった(笑)。

彼女がいつも迷うのは、ご主人をどの欄に書けばいいのか?
という事。

職場で回収した用紙を取りまとめて、
契約会社の細川さん(30代前半/女性/仮名)に渡したら、
「ぷらさん、科与子さんのご主人は収入がないはずだから、
 『配偶者特別控除』の欄に名前があるのは間違いじゃないかなぁ。
 これ、職場でもう一回確認してくれませんか?」
そう言って、一枚だけ差し戻された。

私はそのとき初めて、
科与子さんが無収入のご主人を
完全に「養っているのだ」と知った。

    *    *    *    *    *    *

職場のスタッフは独身者が多く、
30代でも結婚していない人がほとんど。
そんな中、応募してきたときに
「既婚」にチェックがついていた科与子さんには、
申し訳ないと思いながら
「お子さんのご予定はないですよね?」と、
確認と釘を刺すような質問を投げたのだった。

そのとき募集していたのが、
クライアント企業さんがこれから新規に立ち上げる、
新しい業務に従事する人達だったので、
企業の担当者も気合が入っていて、
「入ったのはいいけど、すぐに辞める、なんて人はよこさないでね」
と、何度も念を押されていたので、
こちらも普段にも増して慎重にならざるを得なかった。

「あ、それは大丈夫です。
 ウチの人、今、司法試験を目指して勉強中なんです。
 それに受かるまでは、子供なんてとてもとても…」

気分を害することもなく、そんな風に笑って
穏やかに答えてくれた科与子さんだったけど、
まさかご主人が完全に無収入(またはそれに近い状態)
とは思わなかったな。
それじゃ四半期ごとの「評価」によって給料のランクが変わる
"ポイント制"の開始には他の人以上にピリピリするわけだ。。。

まぁ、この手の申告なんて、
どこまでが本当かわからないけどね。

    *    *    *    *    *    *

ところで、私の職場に応募してくる人達の中にも、
目指す職業があって勉強中という人がたまに来る。

科与子さんのご主人が司法試験に受かって
何になりたいのかは今まできちんと聞いたことがないけど、
(普通は弁護士ってことになるのかなぁ…)
行政書士、教師、公認会計士など、
もし合格したらいずれはそちらの道に進みたい、
と始めから告げて応募して来ているのだから、
採用の際には一考の余地があるんだけど、
それで受かって早々に転職していった人を
私は長年見たことがない。

そういった方達は年齢も30代半ばで皆男性。
中には科与子さんのご主人のように奥さんがいる人もいる。

生活がとても苦しいので、仕事には就きたいけど、
目標があるのでそれはあくまでも「腰掛け」で、
そのため、比較的退職が容易と思っている(実はそうではない)
「契約スタッフ」の仕事に応募してくるわけですが、
勉強している雰囲気が感じられるのは最初のうちだけで、
今は誰もが皆、数年以上も働くベテランとして活躍しており
中には神田君(30代前半/男性スタッフ/仮名)のように
班長になってスタッフをまとめている人もいる。

神田君が3年前の就業当初、
片時も行政書士の問題集を手放さず、
休み時間も皆からひとり離れて、
それを解きながらご飯を食べていた…
なんて事は、今の誰もが想像もできないだろう。

二年前、「教師になるつもりなので、1年間の限定で働きたい」
という約束で入った和弘さん(30代後半/男性スタッフ/仮名)は
試験に落ちたのを機に教職をあきらめ、しかも
この秋にはお子さんが生まれる。

和弘さんが試験に落ちたのは当然かもしれない。
だって仕事についてからの彼は、
職場の雰囲気がすっかり水に合ったようで、
気の合う正社員達ともよく飲みに行っており、
別に今から教師になんかならなくても、
妙に嬉々としていて幸せそうだったし、
意欲も興味も、今の仕事のほうに傾いているように見えたから。
もしかしたら、昨年の教員採用試験は
試験そのものを受けていなかったかもしれないね。

まぁねぇ、今までのすべての皆さんがそんな感じだから、
面接で応募者の方が一大告白でもするように、
「実はワタクシ…○○を目指しておりまして…」
などと言いにくそうに言って来ても、
こっちとしては意に介さないっていうか、
「そんなのはきっと今だけだよ(笑)?」
な~んて内心思って、さほど重大にとらえなかったりするのだ。

    *    *    *    *    *    *

男の人の職業意識がどんなものか、
私は男性じゃないのでわからないけれど、
彼らの様子を見ていると、「何かになりたい」というよりは、
他者との差別化をはかり、
カッコ良く尊敬される自分になるための手段として、
一発逆転を夢見ているように思える。

女は現実的なので、「これじゃ食えない」と思ったら
早々に「絵に描いた餅」のような夢は
あきらめてしまう事が多いんですが(笑)、
(そうでない人がいたとしても進退の決断は男性よりは早い)
生活を犠牲にしてまでもそれを手にしたいのは、
男性にとってそういった事が自分が自分であるために、
とても大事なことだからだろうと思う。

最初の職場がよろしくなかったり、不遇だったり、
小さい頃から何かのコンプレックスがあったり、
性格的に周囲から受け入れられず、
無意識に「今に見てろ」と思っているような人が多いかな…

ところが、たとえ「契約スタッフ」とはいえ、
(一応)名のある企業でまともな仕事についてみると、
社会的に認知された会社の建物に、
朝日を浴びながら吸い込まれていく自分がいるわけで、
そこの社員達に当てにされ、戦力として認められ、
同僚や先輩後輩も含めた交流が広がっていくと、
今まで抱いていた特定の職業への執着が、
どんどん薄れていくのが現実なのではないかと思う。

業務内容も好きな人にはなかなか面白く感じられるものだし、
残業手当も保険も有給もきちんとつく。

それにほら、うちの職場、
実力さえあれば、少々変わっている人でも、年齢が高い人でも
十分受け入れてくれるので、(実際変わり者も多いし(爆)!)
それで他人からとやかく言われることはあまりない。

今までの生活から一転してそういった環境を得てしまうと、
心も暮らし向きも満たされていくことが多く、
一念発起して臨んだはずだった特定の仕事への意欲も
段々尻すぼみになってきて、やがては消えちゃうのだ。

もちろん、迷いも複雑な思いもあるんでしょうけど、
物心の安定を得て明るく穏やかに変わっていく彼らを見ていると、
「志」ってなんだろうな…と思ってしまう。

目指したものになかなか手が届かず、
それでもあきらめきれずにいるうちに、
30を超え40近くになり、人によっては家族もできて、
深刻な収入の必要性に迫られたときには、
もう働き口がない。

よほどのことがない限り、
今からまともな正社員の職は見つからないだろうし、
もしかしたら、結局ずっとここにいるしかないかもしれない。

気がつけば、何の目標も高い意識もなく、
深く吟味もせずその辺の手近な会社にさっさと就職してしまった人に
収入面でも社会的な地位でも大きく水をあけられ、
両者の間の圧倒的な差は、今から埋まる事はない。

「こんな会社」と思って飛び出した人も、
少々の不満はあってもそこに居残り、
勤続年数を積み重ねている人にかなうケースはまれで、
片や家を買い新車を買い、
家族と共に普通の生活基盤を築いているのに、
私のところに来る人達は、
結局、安定性のない長続きしない職業を転々とし、
何のキャリアも得られないまま
最終的に今の仕事に落ち着いて、
ようやく生活の安定を得るというパターンだ。

これでは辞め様にもなかなか辞められない。
やっとつかんだ安定収入だし、
もう今から当てのない転職などリスクが大きすぎて
逆戻りは怖くてできない。

でもそれは、「契約スタッフ」という
本人が最初から望んでいたとは到底思えない人生で、
それって結局敗者ってことになるのかなぁ…と
私はいつも複雑な思いを抱くのだ。

    *    *    *    *    *    *

「契約スタッフ」の仕事は大きな落とし穴があると思っている。

就業先に比較的大きな企業さんが多いため、
とりあえず対外的な虚栄心が満たされる場合が多いし、
社内の設備も整っており何より雰囲気がよい。
企業の中に入って企業の業務をこなし企業の社員を名乗る。
そして契約会社は法を遵守して残業代も有給も
規定のものを労働に応じてきちんと与えてくれる。

だから一度こっちの世界に入ってしまうと、
非常に居心地がいいので上を目指す気持ちが萎えてしまう。
また、せっかく正社員の職が見つかり転職していっても、
何かと不満を抱いて早々に退職し、
また戻ってくる人の割合が意外にも多い。

結局たいていの人は、
その仕事をやりたいから目指しているのではなく、
それによって得られるステータスを求めているのだ。
たとえ希望した仕事でなかったとしても、
自分の望むものがそこそこに満たされてしまうと、
「何かになりたい」「何かを目指したい」とは
あまり渇望して思わなかったりするんだよね。

そんな事を思うと、
「○○になりたいので、
 今の会社を辞めたいと思っているんですよね」
などと言って来る若い友人達には、
「その気持ちってどこまで本当なの?
 今、仕事で調子が悪いから
 今とは違う別な自分に憧れているだけなんじゃないの?」
と問うて見たくなるのだ。

ほとんどの人は、
「まぁ、それもあるんですけど…」と言葉を濁す。

転職はね、仕事が絶好調のときにしたほうがいいよ。
そうじゃないとうまくいかないから。
仕事で評価を得ていて実績も上がっていて、
その状態でそう思うんならその気持ちは本物と思うけど、
不調なときに思うことなんて、現実の否定でしかないから。

たとえダメな会社と思っても、
人間関係や雰囲気が最悪と思っても、
それが財務のしっかりしたまっとうな職種の会社で
心身に異常がなく健康にやっていけるのなら
絶対安易に辞めないほうがいい。

そういった理由で別な仕事を目指したり、
独立・起業を夢見て挫折した人のたどり着く先が
今よりもいいって事はほとんどないんだから。

「そんなもんスかねぇ…」

「そんなもんです」

そして私は、中堅総合病院の事務長だったのに、
上司と合わなくて退職したものの、
転職活動は不採用に告ぐ不採用で、
結局、私のところで働きながら、
今は当時の自分をすごく後悔している、
菅野君(30代後半/男性スタッフ/仮名)
の話なんかを始めるのだ。

「あのときはね、こんなヤツラ見返してやる」って思ったんですよね。
俺も若かったからなぁ…
せめてかみさんがもっと強く止めてくれたらなぁ…
(その奥さんは子供を連れて出て行ってしまった。)
前職を辞めて今は契約スタッフである事を
なかなか親に言い出せなかった彼は、
お父様の葬儀のときにはじめて母親にそれをカミングアウトした。
「なので、昨日はお断りしましたけど、
 お香典は社名を出してもらって構わないです」
まったく気を使うよ、こういうのは、ホントに^^;…

    *    *    *    *    *    *

少年よ、大志を抱け というけれど、
その「志」の正体と根拠を自分でしっかり見据えていないと、
その後の道は本当に大きく分かれてしまう。

何かの目標ができて退職していく人は、
私の職場でも普通にいますが、
たいていは自学の域を出ずに、
なるべくお金をかけずにそれを達成しようとする。

でも人間って弱い動物だし、
人とのつながりの中でこそ真価を発揮するものだから、
孤独で張り合う人もいない自宅学習は
挫折しやすいんじゃないかなぁ…

本気でそれに取り組みたいのなら、
一定のお金はかけるべきだし、
そういったところから計画を立てていかないと、
真剣味も出ないし、現実性にかけるんじゃないのかなぁ…

そこまでやってダメならあきらめもつくけど、自分の中に、
未だ本気で取り組んでいない自覚がずっとあるから、
「来年こそは、来年こそは…」と、達成感の無い中途半端な状態を
長く続けてしまうんではないの?

科与子さんのご主人が司法試験に受かる日は来るんだろうか?
私はなんとなく来ないと思う。
科与子さんはとても評判のいいお薦めのスタッフさんだけど、
二人とも結局は「こっち側」の人になっちゃうんじゃないだろうか。

かく言う我が家も夫は独立した9年後に自営業をたたんでおり、
現在ご亭主は警備員で、保険もなく身分的にはフリーターである^^;
長男の大学の奨学金の申請時に「主たる家系保持者」のところに
私の名前を書いたら、長男が「うちってそうなの?」とびっくりして、
以後遅い残業にも一切の文句を言わなくなった。

その長男が来年の就職に当たって、
「もし全部ダメならお母さんのところで雇ってよ」と言うので、
「あ~、ダメダメ。
 こっちの道に入っちゃったらなかなか抜けられないので、
 やめた方がいいよ。」と、冗談なのに思わず真顔で言ってしまった。

私は、優秀で意欲的なスタッフ達が
キビキビと働いている自分の担当出向先を、
とても誇りに思っているけど、
その心のどこかで彼らの将来が案じられ、
「安易にこっちに来ちゃダメだ!」と、
警鐘を鳴らしたくなる気持ちも確実にあるのだった。

「いやぁ、お陰さまで生活もやっと安定したし、
 今は幸せですよ。」
そう言っていだけるのが私の心の救いではあるんですが。




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オトコは勝手にやってなさい」カテゴリの記事

コメント

一度振り上げた拳は簡単におろしてはいけませんね。
でも、人と違った生き方は疲れるので大変なんですよねー。
疲れきってる時に、満たしてくれる条件があると
そっちに満足しちゃって。
「こういうのもいいな~。知らなかった!
 そうだ。これが大事だったんだ!今になって気がついた!」
ってなって・・・
前よりも悪い条件でも満足しちゃって。

本当に中途半端。
やるなら、玉砕覚悟でやらないと
辞める以前よりも良くはならないですよね。
相当の覚悟がないと
人と違う道は続かないかと。

Pmanさん、こんばんは!いつもありがとうございます。私が今の仕事に来たのがジャスト40歳のときで、人生の後半をこういった仕事で過ごすとは思っても見ませんでしたが、とりあえず、贅沢はできないけど暮らしていけてボーナスも少しばかり出るので、自分の転職は成功だったと思っています。


今の仕事は(たいしたものではありませんが^^;)自分がそれまで従事してきた仕事の集大成のようで自分でも気に入っており、これから違う仕事につきたいとはあまり思はないのですが、これは最初から「目指した」わけではなく、「こんな感じの仕事がしたいな~」と思い続けてきた自分の、二者択一の積み重ねの結果だとも思うんですよね~。


世に知られている職業だけが「仕事」じゃないし、ひょんなところから気にあった仕事につく可能性もあるわけで、そんなところも含めて広い選択肢の中から柔軟にやっていけばいいのになぁ…なんて思ったりします。


私の幾度かの転職は全部経済的な事情によるものですが、やむを得ない事情さえなければ一生工場の仕事でいいと思っていたし、それで三年間続けているうちにリーダーさんになって、それが決め手で次の仕事に採用され、そこでの経験があったことが今の仕事の決め手になっているので、何もかもがつながっているし、無駄なことなんてひとつもないな…と思うんですよね。


私自身は楽天家なので、生活に異変がなければ仕事にはあまり何も望まず、その分、PTAとか役員とか、きっとそっちのほうに走っていたような気もします(爆)!

なるほど~。
柔軟に考えていくのもいいですね。

自分の思い通りになること自体なかなか少ない。
志を持ってガンコに真面目に突き進むと
どうにもならなくなって
心もポキンと折れちゃって
自分自身に失望し身も心も荒れてしまう・・・

それよか目の前にあることを頑張ったり
それによるご縁などを大事にしたりして
いつの間にか流れるように満足のいく結果になってることもありますよね。

足掛けではじめたことがいつのまにか
本業になって立派になることだって
世の中にはよく聞く話ですのね。

そうなんです。自分の来た道を振り返ると、何かに固執しているときは行き止まりにぶつかることばかりで、「まぁ、これでもいいか」とあきらめた時から状況が好転して行く事が多かったので、一度ふっと手を離してみることも大事だと思うんですよね。


きっと遮眼帯が付いている状態では、迷路の正解をなかなか見つけられないって事なんでしょうね。

コレまたイタいですね…。

歯医者行くんで、また書かせてもらいます。出版社に持ち込んでもいいんじゃないですか?

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あはは、歯医者の前に"痛い"思いをさせてしまい、申し訳ありません^^;「何かを目指す」ている状況の中には、自分でも気がつかない現状否定の気持ちが多分に含まれている事も多いので、前向きにがんばっているように見えて、実際は逃避や変身願望など、負のエネルギーが空回りしているだけのときもありますわ。自分の経験でも、そう思います。え?出版社?それはちょっと買いかぶりですって!^^;
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