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2006.02.28

労働者の良識

タイル張りのようにぎっしりと
隙間の無い研修スケジュールが詰まっているため、
今私は、朝だけ現場で指示出しをして、
日中から終了まで契約会社のほうにいる。

契約会社のほうの自分の机で研修資料を作っていると、
「来ました。」
と、細川さん(30代前半/女性/仮名)が伝えに来た。
私は「行きますか。」と立ち上がった。

細川さんと私と。
それにメグちゃん(20代前半/女性/仮名)が加わり、
お互いに軽くうなづきあって、
三人で応接テーブルに向かった。

今日は川田さん(30代前半/女性スタッフ/仮名)に
契約の終了を告げなければならない。

    *    *    *    *    *    *

交通事故がきっかけで体調のバランスを崩し、
1月の半ばからずっと休んでいる川田さん。

大した事故ではなかったと最初本人から聞いている。
入院を要するような大きな怪我もない。

どうやらムチ打ちではあるらしいのだが、
それもどこかがひどく痛むというわけでもなく、
話の断片を客観的につなぎ合わせてみても、
今日の今日まで一ヶ月以上も仕事に出て来れない、
外科的な大きな原因はあまり感じられない。

相手の車が一方的にぶつかってきたもらい事故。

保険の手続き等もさることながら、
精神的なショックが大きかったので、
一週間程度休ませ欲しい。

交通事故にあった話とともに
そう連絡があったのは、
事故後も普通に出社してきていた
数日後の話だったと思う。

そして、この休みは、
一週間→1月一杯→2月某日→2月一杯…
と、約束の出社予定日が近づくたびに一本の電話で延期され、
川田さんをめぐる感情的な空気がどんどん悪化していく中、
「さらに3月末まで」の連絡が入った時点で、
どの立場にあるものも、さすがに皆キレた。

「何が原因でこんなに長期化していて、
いったいいつになったらきちんと出て来れるの?
『3月一杯まで』という話は、どこまで確実なものなの?
ずっとこんな調子で、4月1日になったら
本当にちゃんと出て来てくれるの??
あのさ、ウチはいつまで待てばいいわけ?
桜カンパニー(仮名)さんのお考えをお聞かせ願いたいですね。」

そんなの、こっちだって全く同じ気持ちだ。
このセリフをそのまま川田さんにぶつけたいよ。

そうでなくても数名という数少ない人数で
24時間の交替制を回している班なのに、
彼女の欠勤によって大変負担の大きい勤務体制を
延長に次ぐ延長で無限に強いられている他のスタッフ達の
現場での不満はすでに爆発していた。

    *    *    *    *    *    *

これでさ、川田さんがまだ、
皆に愛され、必要とされて、
不運の事故にも同情の余地のあるスタッフさんなら、
うちも「そこを何とか…」と強くお願いできるんだけど、
現場での川田さんというのは何かと評判が悪く、
出てくるのはよろしくない話ばかりだ。

遅刻・早退・欠勤はもとより、
仮眠や休憩の時間が守れず業務に穴をあけてしまったり、
協同作業に携わる集団の中の個人として、
周囲との協調性や調和の取れた行動が取れない。

注意をする人が同僚だったりすると激高して食って掛かり、
自分を取り巻く人達との摩擦が絶えない。
同じ職場で働く正社員の間からも
「あの人ってどうにかならないの?」と
困り果てて内々に相談が来る、
(今となっては)札付き?のスタッフさんなのだった。

川田さん達の班は、私の直接担当ではない。
他の課に属しているため、私は支援のみで
普段はあまり接触が無い。

川田さんが私と話をするときは、素直で、
普通の人とは違う様子が全く見えないため、
他人の話を総合するしかないのだが、
同じ班のメンバーからしてみれば、
そんな風に、人によってあからさまに態度が違うのも、
彼女への視線を思い切り冷ややかなものにしている
大きな要因になっていると思っていた。

私は以前から、川田さんはアスペルガーだと思っている。
提出のあった診断書は外科とメンタルクリニックのもので、
私は今回の件は、
川田さんがアスペルガーであってもなくても、
事故に端を発したPTSD的な鬱なのでは?
と、自分なりに解釈していた。
診断書の病名は違うものだったけど。

けれど、そういったご本人には罪のない事情を差し引いて
もし川田さんが心身に何の問題の無い健康な人だったとしても、
人としての分別のなさや、
少々卑しさを感ずるところのある人間性などは
その身から消せないと思う。性格なんだよ。
もしかして育ったご家庭がそうなのかもしれない。
大変失礼な言い方だと思うが、たとえば、
家のゴミを他人の家の玄関先に捨てたり、
そういった感じのおうちなのかな、と思ったりする。

いずれにしても、思慮をわきまえた大人の社会人として
企業という組織の中で働くには不向きな人だと思う。

    *    *    *    *    *    *

私は契約スタッフからそのまま上がった現場管理社員のため、
出向元の契約会社が社員に対して行っている、
正規の研修を受けていない。
なので、現時点では法律の事はあまり詳しくわからない。

でも、こんなとき、
契約会社というのは双方から微妙な立場に立たされ、
割に合わない弱い存在だなぁ…とは思う。

例えば今回のように、
企業間の契約によって出向させているスタッフが
長期欠勤で何の戦力にもなっていない状態は、
クライアント企業とこじれてしまうと、
最悪、「契約不履行」という訴え可能な事態にもなるらしい。

だが病気を理由にスタッフを解雇するのは
「解雇権の濫用」という
やってはいけない事であり、
(それは働く者の保護のためには私も当然だとは思う)
かつ、一年間の契約を結んでいるために、
例え「解雇」ではなく出向先企業の予測できない事情で
やむなく仕事がなくなってしまった場合でも
今度は状況に理解が無く納得できないスタッフのほうから、
「契約不履行」で訴えられたら不利な立場となるらしい。

よって、こういった件に関して契約会社の面々は
まるで腫れ物にでも触るかのような
微妙すぎる感覚と用心深さを持っているのだった。

じゃー、どうすりゃいいんだよ?
当てにならない彼女の言動を信じて、
何かが好転するのを永遠に待つしかないの?
いつ終るとも無く頭を下げ続けていれば済む話なの?
企業さんは毎日のように、
今後の判断を求めてきているというのに。
そして現場は疲れきって、
SOSのサインが出始めているというのに。

    *    *    *    *    *    *

…で、ぷらさんはどう思いますか?

どうって?

今後の方針ていうか…

今後の方針ねぇ。。。

私達の仕事は一人前になるのに二ヶ月かかる。
だから、一ヶ月前後の休みで復帰の確約が取れるなら、
特別な事情が無い限り通常企業さんは待ってくれる。
今から新人を入れても戦力になるのが二ヵ月後以降なら、
既存スタッフの回復を待ったほうが
体制の復元が早くて金銭的なリスクも低いからだ。

だがそれも、確実性があってこそ。

川田さんの場合は、
職場への復帰が何度も何度も先延ばしになっている上に、
一番最近の「3月一杯まで」の更なる延長申し出に対して、
細川さんが「本当にそのあとは大丈夫なのね?」
と、念を押したところ、「約束はできない」という返答だった。orz
今までの経緯、川田さんの性格、そして本人の状況、
どれを取っても確実なものはひとつもない。

「この辺で『交替』の判断を下したほうが
いいんじゃないですか?」
と、私は言った。

「理想としては、企業さんがカンカンに怒って
うちの対応に対して『後手後手で何やっているんだ?』
と、余計なクレームに発展する前に、
こちらから、それを打診して進めさせてもらうのが
一番スマートできれいなやり方か、と。」

「無理です。川田さんが納得するわけがありません。
ヘタすると労基署に訴えられて、
被害者意識を前面に出して、
ある事無い事、ガンガンしゃべられますよ?
公的機関はいつだって「労働者の味方」なんですから、
うち、そうなったらヤバイですよ?
この前だって、
『確実に約束してくれないと企業さんは待ってくれない』
と言っただけで、ガーーーーッと反論してきて、
そのあと、モメてモメて、電話を終えるのに
一時間以上もかかったのに。」

営業担当も表情を険しくして頷いた。
二人とも、川田さんと面談するたびに
何時間も延々と攻撃的な「彼女の主張」を聞かされていて
川田さんと何かを話し合うことに対しては、
強い恐怖感がある。

何かの言葉尻が彼女のスイッチをONにしてしまうと、
感情的にキレてしまう人なのだ。
しかもその内容がきっちりと他人の矛盾を
理論的に突いて来る正当な論旨のものなので、
ちょっとやそっとでは、二重の意味で太刀打ちできない。

二人の小さなため息とともに重い空気が流れた。

私はふと、尋ねてみた。

「ねぇ、こういう事ってうちだけじゃなく、
他でもあったりするわけでしょう?
他の企業さんの場合はどうしているの?」

「他の企業さんの場合は、あまり問題になりません。」

「え?どうして?」

「一般事務系のスタッフさんは良識のある人が多いので、
『企業さんにこれ以上ご迷惑をかけるわけにはいきませんし…」
と、自ら退職を願い出てくる人がほとんどだからです。
皆さん、きちんと自分の立場はわきまえていますから。」

「え。。。」

それを聞いて、私は逆に首をひねった。
いくら広告などできれい事をうたっても、
こんなとき、残念ながら契約スタッフの立場は弱い。

長期的に将来を担う人材としてではなく、
今現在の手っ取り早い労働力として受け入れられているのだから、
そういったシステムを良く理解している真面目で利発な人ほど、
企業のお役に立ててはいない現状は、
辛く苦しく居心地が悪く、悪く言われもしているだろうと思えば、
自分も傷つくし、辞めた方が気が楽、
という考えも生まれるだろうけど、
そういったとても微妙なところを、スタッフ側の良識や
「申し訳ない気持ち」などに全面的に頼って事なきを得ているのは、
私としては承服しかねた。
そんな曖昧で不確実なことってないじゃない?

自分ではどうにもならない
長期的な病気や不慮の怪我で働けなくなった人が
企業さんから交代を告げられてしまうのは、
状況次第では致し方ないように感じるけど、
それに対して、制度やルールを明確にして、
お互いに透明感のある決着をつけないと、
人の良いスタッフさんほど、損をしたような気持ちになって
あとあとまでしこりになって残ったり
自分の行動を後悔したりするんじゃないだろうか。

人の善意に頼って、
物事がうまく運ばれるのを待つのが、
私はあまり好きじゃないのだ^^;。
それは他人に判断の責任と負担を押し付けてもいるようで、
一見、「人に優しい」ように見えて、その実、違うようにも思う。

    *    *    *    *    *    *

数日後、川田さんに対しては、
一向に進展がない膠着状況に見切りをつけて、
ついに企業さんのほうから、
「申し訳ないが、スタッフを交代してくれないか?」
と言ってきた。

どこか引いている二人を前に、
「その説明、私がするよ。」と言った。

現場を熟知している私が、
現場が困っている現状をこんこんと説いたほうが
説得力があると思ったし、
私は川田さんと普通に話が出来たので、
そのほうが揉めないと感じた。

「あなたのせいで迷惑している」
これは法律的に言ってもいいセリフか?
「あなたのせいで現場が困っている」
これはどう?
「あなたのせいでウチの会社が困っている」
じゃ、これは?

とりあえず言ってもいいセリフと
言ってはいけないセリフを事前に簡単に確認して、
(法律を良く知らない私が、
法律的な突っ込みの来ない面談をするために)
(でも上司の明快な回答は得られなかった…^^; )
川田さんの前に座る。

川田さんの非は一切攻めず、不運に共感し、
一瞬反論に走ろうとしたタイミングを見て、すかさず、
「川田さんが悪いなんてひとことも言っていないでしょ?
川田さんの気持ちや病状じゃなく、
『今仕事が出来ない』という『事実』に対して
言っているんだよ?わかるよね?」
と尋ねた。川田さんから反論はなかった。

やがて、契約終了を了解してくれたのを受けて
二人が何かの書類を取りに言ったときに、川田さんが
「いろいろと板ばさみにあわせてしまって
申し訳ありませんでした」と、一人残った私に詫びた。

なんで他の人には、その態度が取れないのよ?
と、私は心の中で少しだけ残念に思った。

    *    *    *    *    *    *

面談のために久しぶりに会った川田さんは、
室内だというのに、顔を隠すように
鼻の辺りまでマフラーをグルグル巻きにして
じっと下を向いてうつむいて私達を待っていた。

発声もどこか力強さが無く、
私はちょうど一年前に不安神経症で退職した
絵梨ちゃんの姿と一瞬ダブった。
彼女も面談のときに、床に視線を落として
そんな感じで私を待っていた。

私は川田さんを見て、
昨年の絵梨ちゃんの件でわかったように、
「あぁ、何か薬を飲んでいるんだな…」と思った。
ちょっと様子が違う感じがしたから。

面談を終えて席に戻ると、別なスタッフさんから、
今職場であがっている皆の不満を列記したメールが届いており、
その内容が、そのときの私から見れば、
「そんな事でガタガタ言うなよ~…」と言いたくなるような
重箱の隅をつつくような内容のものだったので、
少しゲンナリした。

健康で元気に仕事が出来ていれば、
それで十分じゃないか?
そのときはそんな気持ちにすごくかられたよ。

 




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