スポンサーリンク




« デジカメ買替えで考えた! | トップページ | お酒の席ではダメダメリーダー »

2005.05.06

IDカードを返してください

ツトムさん(30代前半/男性)が
職場に来なくなってから、約一ヶ月経つ。


4月の上旬に、「胃が痛いです」という
欠勤連絡を最後に音信不通になってしまった。
電話をしても、メールを出しても、もう一切の反応がなく、
本人の意思確認さえできないままに、
契約は強制終了となった。


だが私にはまだ、やり残している重大な業務があった。
企業さんへの彼のIDカードの返却である。


IDカードは従業員の証明書であると同時に
出入りするときに必ず提示しなければいけない
入室許可証でもある。


通常、私達契約社員の外部スタッフが退職するときには
他の貸与品と共にすみやかに企業さんに返却し、
業務資料はすべて回収して、シュレッダーにかける。


過去数年間、何の疑問もなく
滞りなく行ってきた、この当たり前の契約会社の責任を
今まだ、企業さんに対して果たせないでいるのだ。


以前ちょっとした行き違いが原因で
数日返却が遅れてしまったことがあったが、
返却がされていないことに、担当者さえも気が付かず^^;、
慌てて持参しても、全然許容範囲だったのは昔の話で、
セキュリティの強化がどの企業でも
大きな課題となっている現在では、
大きな失態である事に間違いはない。


唯一の救いは、ツトムさんが会社に来れなくなったのは
メンタル的な要素が強いのであろう…という
共通の認識があることで、職場(出向先企業)の上司からは
ある程度、アクシデント的な見方をされており
「どうなの?連絡、取れたの?」と、日々進捗の確認はされたが
頭ごなしにお叱りを受けるということはまだなかった。


だが、こんなご時世である。
ツトムさんがどんなに「悪意のない人」であったとしても、
退職した第三者が、いまだに辞めた会社の
IDカードを持っている!という事は、絶対にあっては
ならないことだと痛感していた。


    *    *    *    *    *    *


契約会社側の担当は、折を見て電話を入れていた。
また、数回自宅にの足を運んでくれたが、まったく反応は
なかったということだった。


私も、何度も電話を入れた。
知っている限りのアドレスにメールを出した。
チャットなら立っているんじゃないかと思って
yahooもMSNもIRCも毎日つないでみたし、
skypeも時折起動してみた。


けれどネットをつないでいる様子は、
こちらからは見えなかった。


私も、契約会社の担当も、
鬱傾向の彼を追い詰めたら
取り返しのつかない事になるんじゃないか?と
先行きが不安で、
さほど強気にも出られなかったのだけれど、
もうそろそろ、そうも言っていられないと思っていた。


    *    *    *    *    *    *


ツトムさん、カードぐらいは返してよ。
自宅に引きこもっているんでしょう?
人格者で人柄の温かいウチの課長(30代後半/男性)が
「安否」をすごく心配しているよ?


「カードはこの際後回しでいいから、
元気で居ることだけを早急に確認して下さい」と
真剣に私に言って来たよ?


    *    *    *    *    *    *


ツトムさん、あなたがなぜ
大手系列のシステム構築会社を辞めてしまったのか
私にはよくわからないし、聞きもしなかったけれど、
「だったら、またウチに戻っておいでよ」 なんて、
誘わなければ良かったね。


せっかく来てくれたのに、何一つ役に立てなかったよ…


思えばこの一年、私の先生だったじゃないか。
skypeを教えてくれたのも、blogを教えてくれたのも、
みんなあなたでしょ?


紹介してもらったタツノ君(30代前半/男性)は、元気だよ。
ツトムさんの紹介にふさわしい人だった。
もしかして、自分の代わりと思っている?
最初からそのつもりだった?


どんなに、具合が悪くても、
もしか、「首尾よく辞められた!」と陰で舌を出して
私たちが騙されているのであっても(それでもいいけど)
返却の義務のあるものは返すべきだよ?
それが社会人としての責務なんじゃないかい?


あれからそれなりに時間も経った。
今なら、そろそろ、いいんじゃない?


    *    *    *    *    *    *


たぶん、人と会うのが相当嫌になっているんだろうなぁ…
でも、やっぱり、これじゃイケナイ。
人任せにしないで、自分が行こう。
会えるまでは、毎日でも行こう。


自宅とは逆方向なので、いくら車でも
終業後に寄って帰ると、一時間半以上も遅くなるが、
毎日、仕事の帰りに必ず寄ったら、
一年~二年のうちには、ばったり出会う事もあるだろう。


住所から当たって、彼の自宅に行ってみた。
たいていの住人が南面のシャッターをおろして閉じきっている。
新しいけど不健康そうな?アパートである。
当然だけど、どのドアにも表札なんてない。


ツトムさんの自宅と思(おぼ)しきドアの差込口は
チラシやら勧誘員が無料で配っていったのか
新聞やらが乱雑に突っ込まれたままである。


電気のメーターを見てみる。


結構スピードが出ている。
何台もあるPCをほったらかしにして、
そのまま息絶えているなんてことは、
彼に限っては、ないような気がしてくる。


チャイムを押してみる。
コンコンとドアをノックして名字で呼びかけてみる。
(彼の名字はありふれているので、
職場での呼称は名前のほうだった)
暗くなってから、女性が若い男性んちのドアを叩いて
名前を呼ぶなんて、十分怪しいし、
ひと目悪いよなぁ…と、かなり恥ずかしい。
(さすがに普段どおりの「名前」では呼びにくい^^; )


でも、負けない。
なんか、物音が聞こえたような気がしたのだ。
たぶん居る!きっと居る!
どうしたものか迷っているんじゃないの?
もう一度名字を呼んで、名乗ってみる。
「ぷらたなすです。○○さん?ぷらたなすです!」


一瞬、物音が聞こえたような気がしたのだが、
気のせいだったのだろうか?
それにしても、人が住んでいるのかいないのか、
生活感の全然ないアパートだな…。
通路の蛍光灯の白々しさがやけにまぶしいよ。


その日は諦めて、新聞やチラシの詰まった
ドアの差込口に、どうせこんな結果に終わるだろうと予測して
あらかじめ書いてきた大きめな厚紙のメモを
無理やり突っ込んできた。


そうだ!他人と接触するのがそれほどまでに恐怖なら、
人と触れあわずにカードを返却できる手段があればいいんだ。
あー、迂闊かだったなぁ!
契約会社の返信用封筒を持ってくれば良かった!!!
「明日は返信用封筒を持ってきます」と書き足して
私はその場を去った。


帰宅途中に、契約会社の担当から
業務携帯にメールが入る。


「私も今日は帰りに寄って見ます」
お!!チャンス!細川さん(30代前半/女性)!封筒だ!
会社の返信用封筒を持参してください!
それを彼の家のポストに突っ込んできてください!


「なるほど!らじゃ!」とレスが来る。
ツトムさんが家に居たなら、私が来たことは
わかっているはずだ。
念のため、信号待ちの車の中で、
彼の携帯に、「また来ます」とメールを打っておく。
たぶん、電源切っていると思うけど…


    *    *    *    *    *    *


翌日。


「なんか連絡あった?」
「いえ、全然」
「返信用封筒入れてくれた?」
「うん、入れた。チャイム押しても居るんだか居ないんだか…」


「アタシさ、カードを返してもらうまでは毎日行くことにした。」
「え…、でも、それって…」
「大丈夫だよ。追い詰めたりしないよ。ただし、根負けするまで
毎日さり気なく行って、さり気なく帰ってくる。でも毎日行く。
最初は嫌悪されても、悪気を持たずに繰り返しているうちに、
空気のように感じ始めるよ。そのときがチャンスかなぁって。」
「ぇ…でも…。でも、なんか、やだなぁ…」


彼女が自殺など、万が一の事を心配していることはよくわかった。
でも、今は不思議にそんな気はしない。
ちょっとでも胸騒ぎがしたら、そのときは、
大家さんに連絡を取って、強行突破だ!と、心に決めていたけれど。


    *    *    *    *    *    *


次の日も行ってみる。そうだ。毎日行くんだ。
なんだか、私って借金取りみたい、と苦笑がこぼれる。


が、やはり昨日のままだった。
ドアの差込口も昨日となんら変わりない。


ギューギューに突っ込まれているこれらの新聞・チラシを
引っこ抜いて、中を覗いてみようか?と思ったが
さすがにそれは、はばかられた。
この分じゃ、昨日のメモも読んでないだろうなぁ…。


だが、今日は一計を案じてガムテープを持ってきた。
ドアの覗き穴を外からメモでふさいじゃうのだ^^;。
なんぼ引きこもりでも、数日に一度ぐらいは
外に出るだろう。


彼の活動時間帯はきっと夜中に決まっているが(笑)、
玄関に近づいたときに覗き穴から
外からの通路灯の光が差し込まないことに気がつくはずだ。


または、人に会うのがそんなに怖いなら、
逆に来訪者を中から逐一確認しているかもしれない。
表(おもて)からふさいじゃえば、「クソっ!」とドアを開けて
メモを見てくれるだろう(笑)。(シャレも肝心だよ(笑)。)


「ツトムさん、昨日、細川さんが返信用封筒を
新聞受けに突っ込んで行きました。見た?
私もそろそろ企業さんからプレッシャーがかかり始め
カードの回収に尽力しなければいけなくなりました。
その封筒でIDカードを返却してください。ごめんなさい。
しつこいようだけど、悪く思わないで下さい」


チャイムを押しても、ドアを叩いて呼びかけても
相変わらず反応がない。ただ気配は感じるような気がする。
持参したガムテープをべっとちぎって、ドアの覗き窓のところに
小さな封筒に入れたメモ書きを張ってきた。
帰宅途中に「また来ます」と、再び携帯にメールを送った。


    *    *    *    *    *    *


毎日行こうと思っていたのに、
職場では運悪く遅くまでの打ち合わせが続いて
早くも計画断念だ。そのままGWに突入。


しかし、今日、契約会社の細川さんから連絡が来た。
「ぷらさん、カード来ました。。。。。」


「お!!やったじゃん!(やった!)」
「それが…、私のシャチハタ押した返信用封筒に
ネックストラップに入ったままのIDカードだけ、
それだけバサっと入っていて…他には何も…。
手紙もないし。」


「ぷらさん…、なんかアタシ…すごく、微妙な気分…」
なんかアタシ…"寂しい"と言いたかったんだろう。わかるよ。
そうだよな。私と細川さんとツトムさん他数名は
昨年はいい飲み友達で、遊び仲間だったんだ。
「こんな別れはないだろう」というのが、彼女の本音に違いない。


    *    *    *    *    *    *


本日、IDカードと貸与品一式を揃えて企業さんに返却を終えた。


「こんな別れはないだろう」
そう。まったく同感。これで本当の本当に縁が切れてしまった。
大切な友達を永遠に失ってしまって、
空洞があいたような気分だな。。。


どうにもうまくいかないグループの次のリーダーさんに、と、
心から期待していたのにな。。。助けて欲しかった。


自分で声をかけて誘った人を、
自分で解雇の処理をした心の痛みよりも
完全終止符で心に穴があいたような気持ちが強い半面、
IDカードが返却できて素直にうれしい気持ちも。複雑だなぁ。。。
細川さんは、年も近いし、彼がちょっと好きだったのかもしれない。
私もファンだったな(笑)。本当にいいヤツだったのにね。


    *    *    *    *    *    *


今日、帰りにIDカードを確かに受け取った旨の
メモを再び貼りに行った。
ドアの差込口に乱雑に突っ込まれていたチラシや新聞は
きれいに取り除かれていた。
覗き穴に外から貼った私のメモもなかった。


読んでくれたんだ!元気なんだ!少しうれしい。
たぶん、そろそろ回復傾向なのだろうね。
私が最後にまた訪れることを察しての意思表示なのかもしれない。
事前に職場で書いた手紙を、また覗き穴に貼ってくる。


「ツトムさん、IDカード確かに受け取りました。
返してくれてありがとう。タツノくんは元気です。
今日から独り立ちです。ツトムさんも、元気でね。
いつかまたどこかで会いましょう。さようなら。」


« デジカメ買替えで考えた! | トップページ | お酒の席ではダメダメリーダー »

.ビューティフルヒューマンライフ」カテゴリの記事

コメント

うわぁ・・・
寂しいというか、悲しい話ですね
私もプログラマ時代、後輩が本当に「壊れて」しまったことがあります
もうその人自身、何がどうなっているのかも分からない状態になってしまって、別れもなにもありませんでした
あまりにも忙しい現場で、その人をフォローし切れなかったことを、皆で悔やんだのを思い出しました

蛇足ながらその後、まさか自分も心身共に疲れ切ってぶっ倒れるなんて思ってもいみなかったですけど・・・

悲しいです。。。

彼、あるすさんの後輩さんのように「壊れ」てしまったのでしょうか…私も後悔はそれなりに、たくさんあります。ウチの職場、あるすさんの前のお仕事みたいに、忙しくはないのに、精神的に不調になって来れなくなる方がたまにいるんです。。。そうならないように、すごく気をつけていても、周りの理解がないとどうすることも出来ず、至らない思いで一杯ですよ…。

そう、そう、今記事中で盛んに話題に出しているタツノ君も、大手メーカー系システム会社の出身ですが、30キロも痩せてすい臓壊して辞めてます。

「医者に、『オマエ会社辞めろ!』って言われて辞めた」…なんて笑って言いますけど、ベルトの穴が短期間のうちに端から端まで縮まったそうです。

あるすさんも、今のお仕事では決して無理しないで下さいね。命まで縮めたら何もなりませんもん。。。

かなり心配ですね。
こう言う傾向のある方をカウンセリングできる素質(資格)のある方のホローはなかったのですか?
正直言って、IDカードを送ることを簡単に受け取っていませんか?
本人の責任感でかなりの努力で行動した
or
ご家族の介入があった
と考えるのが、正しい見方と思います。

私も20年以上前にプログラマから外資系メーカのSEにヘッドハンティングされ、
結婚・子育てで家庭に入り、
この世界に戻ってきました。
女で男と対等に認めてもらうには、男の何倍の苦労も努力も体を壊すこともありました。
途中何人も谷底に落ちていきました。
だから言えます。
パニックになった時、冷静になるには人により時間差があります。
どうか、待つことをしてあげてください。
落ち着いたら連絡ができるように、ただただ待つのです。
相手の話をオオム返しで、「そうね」とも「違うよ」とも言わずに。
「頑張って」は禁句です。
その人にとって、精一杯頑張って来たのですから。

一応、子育て中に精神障害のかたの応援ボランティアをできる講習も受講済みです。

hiro0404さん、ご訪問とコメントを大変ありがとうございます。契約スタッフが企業さんに貸与品を返さないのは厳密に言えば違反になるので、通常は返していただくまで何度も伺ったりするみたいですが、そうまでせずに済んだことで多少の安堵はありました。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/54136/4017181

この記事へのトラックバック一覧です: IDカードを返してください:

» 出社拒否 [脳の整理(´ω`)ノ]
さて、ぷらたなすさんのところで話題があったので 私の体験談でも載せておこうかなと [続きを読む]

» なんでこうなっちゃったんだろう? [さすらいのへたれプログラマ]
新しい校舎のスタッフとして採用したN君が、週の始めから突然連絡が取れなくなってし [続きを読む]

« デジカメ買替えで考えた! | トップページ | お酒の席ではダメダメリーダー »

スポンサーリンク

3か月継続で白歯実現!

介護の転職

経理の転職

無料ブログはココログ

★★★